触覚とそのセンシング(後編):福田昭のデバイス通信(394) 2022年度版実装技術ロードマップ(18)
前回に続き、「触覚」について解説する。今回取り上げるのは、触覚をセンシングするデバイス、「触覚センサー」だ。
触覚(皮膚感覚)と触覚センサーの違い
前回すなわち「触覚とそのセンシング」の前編では、第2章第3節第3項(2.3.3)「人間拡張」から5番目の項目である「触覚(2.3.3.5)」の概要を述べた。ヒトの「触覚」には皮膚全体の感覚(皮膚感覚)と筋肉や関節などの感覚(深部感覚)が存在すること、皮膚感覚は皮膚の内部に存在するさまざまな感覚受容器が刺激を受けることによって生じることを説明した。
第2章第3節(2.3)「ヒューマンサイエンス」と第3項(2.3.3)「人間拡張」の目次。赤線の枠で囲んだ部分(2.3.3.5 触覚)が前回と今回の対象[クリックで拡大] 出所:JEITA Jisso技術ロードマップ専門委員会(2022年7月7日に開催された完成報告会のスライド)
今回(後編)は、触覚をセンシングするデバイス、「触覚センサー」を解説する。ただしヒトの皮膚感覚が触覚(狭義の触覚)、圧覚、痛覚、温覚、冷覚といった複数の感覚で構成されているのに対し、「触覚センサー」が検知するのは今のところ「圧覚」(皮膚が圧迫されたときの感覚)だけと言ってよい。このため触覚センサーは、「圧覚センサー」とも呼ばれる。
電気抵抗、静電容量、機械変位、圧電効果、光をセンシングに利用
触覚センサーにはさまざまな原理(方式)が考案されている。特徴的なのは、そのほとんどは弾性体であることだ。弾性体は外部からの機械的な力(圧力)によって変形し、圧力がなくなると元に戻るという性質がある。皮膚を指で押したり、つねったりしても、しばらくすると元に戻ることに似ている。
この弾性体の変形を物理量の変化に変換し、さらに物理量の変化を電気信号に変換することでセンサーとなる。物理量が電気量(抵抗値や静電容量など)であれば、そのまま電気回路に接続できる。
変化する物理量あるいは利用する物理現象には、電気抵抗、静電容量、機械的な変位、圧電効果、光強度などがある。
電気抵抗方式(抵抗変化方式)は、弾性体のフィルムに導電性の粒子を分散させたり、導電性インクを印刷したりした構造体を使う。初期状態のフィルムは絶縁体である。フィルムに圧力が加わると導電性粒子同士が接触したり、導電性インクの印刷部同士が接触したりすることで抵抗値が低下する。フィルムは薄くて軽いので扱いやすい。
静電容量方式は、多分最も製品の多い方式だろう。コンデンサーの誘電体に弾性体を使うことで、外部から加えられた力をコンデンサーの静電容量の変化として検出する。センサーのアレイ化が容易であり、曲面で圧力の分布を捉えるセンサーが実用化されている。
機械方式はコイルばねや板ばねなどの伸縮あるいは変形を外部圧力の検出に利用する。機械的な変位を電気信号に変換する機構が必要となる。
圧電方式は、圧電体に外部から力を加えると、圧電体の表面に電荷が生じる性質を利用する。セラミックスや有機高分子などの一部に圧電体が存在する。触覚センサーとしての実用化例はあまり見当たらなかった。逆に圧電体に電圧を加えると圧電体が変形する性質を利用し、医療機器である超音波診断装置の超音波発生および超音波センシングに圧電セラミックスが実用化されている。
光学方式は弾性体とフォトカプラ(発光素子と受光素子を組み合わせたデバイス)を使う。弾性体に光を当てて反射光の強度を測定する。フォトカプラは反射光の強度を電気信号として出力する。外部からの圧力によって弾性体が変形すると、反射光の強度が変化し、フォトカプラの出力信号が変化する。
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