1滴の溶液と1分の時間でナノシート膜を自動製膜:専門的な知識や技術は不要
名古屋大学は、酸化物やグラフェンといった二次元物質(ナノシート)を用い、薄膜を高速に作製する方法を開発した。この技術を用いると、1滴の溶液と1分程度の時間で、さまざまな形状、サイズの基材上にナノシート膜の製膜が可能だという。
エタノールを1〜2%添加した希薄コロイド水溶液で好結果
名古屋大学未来材料・システム研究所の長田実教授と施越研究員らによる研究グループは2023年4月、酸化物やグラフェンといった二次元物質(ナノシート)を用い、薄膜を高速に作製する方法を開発したと発表した。この技術を用いると、1滴の溶液と1分程度の時間で、さまざまな形状、サイズの基材上にナノシート膜の製膜が可能だという。
ナノシートは、電子・イオン移動度や誘電性、透明性、耐熱性などに優れており、その応用が期待されている。このためには、基材の表面にナノシート膜を秩序正しく配列させる必要がある。ところが、従来の「ラングミュア・ブロジェット」方法は、条件設定や操作が難しく専門的な知識や技術が必要で、製膜時間も1層で約1時間を要するなど、本格的な実用化に向けては課題があったという。
研究グループは今回、自動ピペットを用い酸化物やグラフェン、窒化ホウ素といったナノシートのコロイド溶液を、基板に1滴落とした後、これを吸引するという手法を用いた。この結果、ナノシート同士が隙間なく秩序正しく配列。しかも、わずか約1分という極めて短い時間で、単層膜の自動製膜に成功したという。
実験結果から、エタノールを1〜2%添加した希薄コロイド水溶液(濃度は0.02〜0.05g/L)を用いた時が、最も良い結果が得られたという。また、製膜も工程を繰り返し行うことで、多層膜を作製することが可能なことも確認した。研究グループによれば、ワンクリックで、4インチウエハーへの製膜や、小数ロットのオンデマンド自動製膜などが可能だという。
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