カーボンナノチューブの毒性の原因を解明:炎症毒性の軽減も可能に
立命館大学は、名古屋大学、東北大学と共同で、カーボンナノチューブ(CNT)を認識するヒト免疫受容体を発見した。これにより、CNTによる健康被害の予防法や治療法の開発が進む可能性がある。
立命館大学は2023年4月7日、名古屋大学、東北大学と共同で、カーボンナノチューブ(CNT)を認識するヒト免疫受容体を「世界で初めて」(同研究グループ)発見したと発表した。
同研究グループは、免疫細胞の一つであるマクロファージが細胞表面のヒト免疫受容体「Siglec-14」を介して多層CNT(MWCNT=Multi-Walled CNT)を取り込み、炎症を引き起こすことを明らかにした。また、新たに作成した「抗Siglec14阻害モノクローナル抗体」や「Siglec-14の炎症シグナル阻害薬」を用いることで、MWCNTの炎症毒性を軽減できることが分かった。
CNTは、機能特性や熱伝導性、電気伝導性にも優れている日本発の次世代ナノ材料だ。しかし、一部のMWCNTでは、アスベストと似た炎症毒性が動物実験において複数観察されていて、その原因については分かっていなかった。
同研究グループは2021年2月、MWCNTを認識する受容体として「Tim4」を発見し、マウス実験において、MWCNTによる炎症にTim4が関与していることを明らかにした。しかし、その後のヒト細胞を用いた実験で、Tim4が発現していないマクロファージでもMWCNTを認識することが分かっていた。
今回、同研究グループは、既に結晶構造解析されている約15万種のタンパク質三次元構造の中から、CNT認識に必須な芳香族アミノ酸クラスタを持つヒト受容体を探索し、「Siglec-14」を発見した。Siglec-14受容体は、ヒトマクロファージにおいMWCNTを認識すると、リン酸化酵素「spleen tyrosine kinase(Syk)」の活性化を経由して、MWCNTを取り込み、炎症シグナルを伝達する。実験では、マウスには、Siglec-14がないため人為的にマウス肺胞マクロファージにSiglec-14を導入してMWCNTを投与すると、Siglec-14を導入していないマウスに比べて肺炎が増悪した。また、このモデルマウスにSyk阻害薬を経口投与すると、肺炎が軽減した。
同研究グループはリリースで、「本研究成果は、ヒトが実験動物と同じようにCNTにさらされた場合の炎症毒性発現メカニズムを明らかにしたものだ。CNTが、ヒトに対して毒性を示すか否かについては今のところは分かっていない。化学物質の毒性発現は、曝露(ばくろ)量にも大きく依存するため、CNTを扱う労働環境などでの曝露量を正確に予測し、そのリスクを慎重に判断していく必要がある」とコメントしている。
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