次世代の車載向け伝送技術「GMSL」、市場浸透が加速:高速伝送を1本のケーブルで実現(2/2 ページ)
CASEをはじめとするクルマのメガトレンドにより、車載ネットワークでやりとりされるデータ量は増加の一途をたどっている。ADIが手掛ける「GMSL」は、データ量の増加に伴う課題を解決する高速伝送技術だ。【訂正あり】
旧Maximが開発したGMSL
GMSLは、データ伝送のSerDes規格の一つとして、ADIが買収した旧Maxim Integratedが開発した技術である。デジタル映像信号、オーディオ信号、制御信号を、1本のケーブルで伝送できることが特長で、独自のPHY層とプロトコルを使用する(ただし、GMSLのSTPモードでは差動のPHYを使用)
【訂正 2023年4月24日18時15分 当初、「GMSLのSTPモードではLVDSのPHYを使用」と記載していましたが、正しくは「GMSLのSTPモードでは差動のPHYを使用」の誤りです。お詫びして訂正致します。】
Mayampurath氏は、「クルマが使われる過酷な環境下でも、データの整合性の維持や、堅ろう性を実現できる通信技術が必要だと考えた。そうした通信技術の確立を目指し、(旧Maxim時代から)10年以上にわたり、自動車メーカーと連携しながらGMSLを開発してきた」と話す。
2009年には、GMSLに対応したSerDes IC(GMSL IC)の第1世代として「GMSL1」をリリースした。データ伝送速度は最大3Gビット/秒(bps)だった。2017年には、6Gbpsまでサポートする第2世代の「GMSL2」を発表。GMSL2では、4Kディスプレイとギガビットイーサネットにも対応している。さらに2020年には、12Gbpsまでサポートし、デイジーチェーン接続に対応する「GMSL3」を発表した。
GMSLの最大データ伝送速度は、上記のように世代が新しくなるごとに2倍になっているが、GMSL ICの第1世代から8年を経て第2世代が発表されているのに対し、第3世代は、第2世代からわずか3年後に発表されている。これについてMayampurath氏は、市場の要求が大きく異なっていたと話す。「2009〜2011年は、GMSLのような車載用高速データ通信のニーズがそこまで高くなかった。だが2015年くらいを境にマーケットの動向が大きく変わった。ユーザーが、スマートフォンと同じようなアプリケーションの機能を自動車にも求めるようになってきた」(同氏)。このような状況が、GMSLへのニーズの増加を後押しした。
ADIの日本法人であるアナログ・デバイセズは2023年1月に都内で開催された「第15回 オートモーティブワールド」で、GMSL2を使ったデモを披露した。GMSL2シリアライザーを搭載した7.4Mピクセルのカメラ4台を設置し、それらで撮影している映像をHDMIを介して、リアルタイムに4Kディスプレイに出力するデモだ。これだけのデータ量を1本のケーブルで伝送できる利点は大きい。ケーブルの重量とコストの低減につながるからだ。
その他にも、BER(ビットエラーレート)が低いことや、デイジーチェーンやビデオ分割など柔軟なトポロジーに対応できること、今後ディスプレイが大型化しても同じフットプリントのGMSL ICで対応できることといったメリットがある。
Mayampurath氏によれば、GMSLは既に25社以上の自動車メーカーが採用していて、現在走行しているクルマに搭載されているGMSL ICは総計で7億2000万個を超えるという。「日本の自動車メーカーやティア1もGMSLを採用している。GMSLの認知度は高いといっていいのではないか」(同氏)
車載向けのSerDes技術は、競合他社も開発しているが、Mayampurath氏はGMSL/GMSL ICの利点について「当社の技術は堅ろう性があり、ローエンドからハイエンドまでの品種をそろえている。世代間の互換性も確保しているので、置き換えも容易になっている」と述べた。
ADIは、次世代のGMSLについても開発を進めている。伝送速度はもちろん向上するが、それ以外の新しい機能については、まだ詳細は明かせないとした。
ADIは、GMSLの適用を新たな分野にも広げようとしている。産業用ロボット、農機や建機などこれから自動運転化が始まっていく機械、航空宇宙分野での認証や安全確保といった用途が考えられるという。「いずれも、1本のケーブルによる高速データ伝送や堅ろう性といった、GMSLの利点を生かせる分野だ」(Mayampurath氏)
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