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愛に飢える筆者が、自分で自分を抱きしめてきた「寂しくなったら自分を抱け!」(2/2 ページ)

最後に「ハグ」をしたのはいつだろうか。子供の頃は多かったハグの機会も、年を重ねるに連れて減っていると思う。Dentsu Lab Tokyoが開催した、自分で自分を抱きしめる「Hugtics」の体験会に筆者も参加してきた。

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「抱きしめられても、抱きしめ返せない」もどかしさを感じた

 今度は、他の誰かにマネキンを抱きしめてもらい、その感触をベスト上で味わう“遠隔ハグ(同性)”を体験した。セルフハグとは違い、自分以外の誰かからハグされているという気恥ずかしさがあった。遠隔ハグ(同性)は、男性がマネキンを抱きしめているだけあって力強く、筆者の中からも湧き出てくる熱いものを感じ、抱きしめ返したくなった。しかし、今回のHugticsのデモでは、マネキン/ベスト共に1つしか用意されていなかったため、「抱きしめられても、抱きしめ返せない」という点が残念だった。

正面からの遠隔ハグ(同性)
正面からの遠隔ハグ(同性)[クリックで拡大]

 遠隔ハグ(異性)も体験した。現代の厳しいコンプライアンスに引っ掛かるので詳細は控えるが、「よかった」とだけコメントしておく(笑)

 ……と冗談はさておき。遠隔ハグでは、自分を抱きしめている人の性別は、言われなければ分からなかった。前述の通り、Hugticsの技術は、人工筋肉の収縮によって抱きしめられる仕組みのため、相手の質感や匂い、鼓動は伝わってこない。担当者によると、「今後、マネキンの質感に関する改良の余地はある」とのことだったので、よりリアルなハグ体験のため、今後の改善に期待している。

正面からの遠隔ハグ(異性)
正面からの遠隔ハグ(異性)[クリックで拡大]

 最後は、頭に脳波計を付けてのセルフハグ。この頃には、気恥ずかしさからは解放され、ハグに集中できるようになっていた。また、耳に付けたヘッドセットからは、心拍音(BGM)が流れていて、よりハグに集中できる仕様になっている。

 このハグでは、計測された脳波から被体験者の幸福度が推定された。幸福度が高い程ベストが青く光る他、システム上で幸福度を表す1〜100までの数値(幸福度が高い程、数字が大きくなる)が表示された。なお、幸福度の最頻値は60〜70だという。筆者は、真っ青になった上で幸福度86に到達し、生粋のハグ好きであることが証明された。

正面からのセルフハグ(脳波あり)
正面からのセルフハグ(脳波あり)[クリックで拡大]

ハグガチ勢の率直な感想

 筆者は、「めっちゃ夢のある技術!もっとたくさんの人に体験してもらいたい」と感じた。今回のデモは、「自分で自分を抱きしめる」というコンセプトで行われたが、技術としては物理的な距離や時代を超えたハグを可能にするものだ。

 大切な人を思い浮かべてほしい。例えば、自分に子供がいたとして、子供が小さい時に、自分が病で倒れたとする。Hugticsを使って、自分が元気な時にハグを記録しておけば、自分が倒れた後でも子供にハグすることができる。あるいは、遠く離れた家族や恋人と、ビデオ通話をしながらハグをすることで、心を通わせられるかもしれない。

 筆者が子供の頃は、うれしい事や悲しい事、寂しいことがあれば、家族や幼稚園の先生などにすぐに抱き付き、抱きしめてもらっていたと記憶している。しかし、年を重ねるに連れて気恥ずかしさも芽生え、ハグをする機会は格段に減ってしまった。寂しくても、甘えたくても素直になれない大人にこそ、ぜひ体験してもらいたい。

 余談だが、筆者が好きな漫画で「FAIRY TAIL」(講談社)という作品がある。作中に、「世の中には孤独を好む者もおる。しかし、孤独に耐えられる者は一人もおらん」(マカロフ・ドレアー)という一節があり、非常に共感したのを覚えている。多様性への理解が進む現代において、愛を求める先は、家族や異性だけでなく、同性や2次元(アニメ/漫画/小説などの創作物の世界)などにまで広がっていると思う。Hugticsのような技術が発展すれば、筆者のような2次元オタクが、好きなキャラクターとハグできる時代がくるかもしれない。

 筆者は今回、データの上でも、気持ちの上でもHugticsで幸せを感じてきた。一方で、「ハグ=ただ抱きしめ合う行為」ではなく、抱きしめ合いを通じて、相手のサイズ感や質感、匂いや鼓動などのさまざまな情報を感じ取る行為だと思うようになった。Hugticsを通じたハグは、対面でのハグの代替手段ではなく、対面でハグした時の感覚を想起させるきっかけとして有効だと思われる。読者には、今後も新技術の発展に期待してもらいつつ、これを期に大切な人との(合法的な)ハグの機会を増やしてもらいたい。

多くの人に体験してもらいたい

 Dentsu Lab TokyoでHugticsプロジェクトを統括する大瀧篤氏は、「人間は、ハグをすることで脳内からオキシトシンというホルモンが分泌される。オキシトシンは、人と人との愛着を強める効果や、ストレス軽減の効果もあり、幸福感が増すといわれている。Hugticsは、うつ病や自閉症をはじめとしたメンタルヘルスの課題に対し、ハグでヒト同士の心を通わせ、豊かさを感じるきっかけになればと考え、開発した。今後もHugticsを体験できる場を設ける予定のため、ぜひより多くの人に体験してもらいたい」とコメントした。同技術は、テクノロジーを音楽/映画の祭典「SXSW2023」(2023年3月12〜15/会場:米国テキサス州)で既に展示されていて、約500人が体験している。

SXSW2023での展示
SXSW2023での展示[クリックで拡大] 出所:Dentsu Lab Tokyo

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