東北大ら、カルシウム蓄電池向け正極材料を開発:500回以上の繰り返し充放電を実現
東北大学とトヨタ北米先端研究所らの研究グループは、カルシウム蓄電池向けの「正極材料」を開発した。開発済みの「水素クラスター電解液」と組み合わせて試作した電池は、500回以上の繰り返し充放電に成功した。
コベライトに着目、ナノ粒子化と炭素材料を複合化
東北大学金属材料研究所の木須一彰助教と同大学材料科学高等研究所(AIMR)の折茂慎一所長(兼金属材料研究所教授)および、トヨタ北米先端研究所のRana Mohtadi博士(兼AIMR主任研究者)らによる研究グループは2023年5月、カルシウム蓄電池向けの「正極材料」を開発したと発表した。開発済みの「水素クラスター電解液」と組み合わせて試作した電池は、500回以上の繰り返し充放電に成功した。
カルシウムは、安価で入手しやすい元素である。金属カルシウムを用いると、高いエネルギー密度を実現できるため、蓄電池の「負極材料」として注目されている。一方で、可逆性や安定性に優れた「正極材料」や「電解液」の開発が遅れていたという。そこで研究グループは、高い伝導率と安定性に優れた水素クラスター電解液を2021年に開発した。
今回は、新たな正極材料として天然鉱物のコベライト(銅藍、硫化銅)に着目した。リチウムやナトリウム、マグネシウムといった陽イオンを貯蔵できるからだ。一方で、コベライト正極とカルシウム金属を用いた蓄電池は、「可逆性が乏しく、容量も少ない」といわれてきた。
その要因を調べたところ、「コベライトの粒子が粗大であると、イオン半径の大きいカルシウムイオンが構造内へ十分に拡散しない」「充放電過程でコベライト粒子同士が凝集してイオンパスが喪失」「カルシウム金属に対して、電解液が十分に安定しておらず充放電サイクルに伴って過電圧が増加する」ことが分かった。
そこで今回は、約30nm程度までナノ粒子化させたコベライトをカーボン材料内に分散し付着させた材料を合成した。こうして得られたコベライト炭素複合体のカルシウム挿入・脱離反応を評価したところ、370 mAh g-1という高い容量を示した。この値は、市販されているコベライトに比べ、容量が約50倍も大きいという。
カルシウム挿入・脱離反応の前後を透過型電子顕微鏡で観察した。これにより、コベライト粒子同士が独立に存在していることが分かった。また、水素クラスター電解液と金属カルシウム負極を用いた電池は、500回の繰り返し充放電を行っても、固有の充放電プロファイルが得られ、容量維持率は90%(10サイクル目と比較)に達した。室温で5分間充電すると、1時間充電した時の半分の容量に達するなど、高速充電にも対応できることが分かった。
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