ウランテルル化物で、新たな超伝導状態を発見:無冷媒超伝導磁石で高磁場を発生
日本原子力研究開発機構(以下、原子力機構)は、ウランテルル化物において、新たな超伝導状態が存在することを東北大学と共同で発見した。それは「低磁場」と「高磁場」との間に存在する、「両者が入り混じった状態」である。
量子コンピュータに向けた超伝導量子デバイス開発へ
日本原子力研究開発機構(以下、原子力機構)は2023年5月、ウランテルル化物(UTe2)において、新たな超伝導状態が存在することを東北大学と共同で発見したと発表した。それは「低磁場」と「高磁場」との間に存在する、「両者が入り混じった状態」である。これらの状態を制御する方法を見出せば、量子コンピュータに向けた超伝導量子デバイスの開発につながるとみている。
ウラン化合物であるUTe2は、新しいタイプの「スピン三重項トポロジカル超伝導体」候補として注目されている。ところが、磁場をかけると低磁場超伝導状態から高磁場超伝導状態へ、どのように移行していくかは、これまで明確にされていなかった。
UTe2については、2019年に米国の研究グループが、超伝導転移温度(Tc)1.6Kの超伝導を発見した。ただ、当時は単結晶の品質が課題であった。そこで原子力機構らのグループは2022年に、UTe2の超純良単結晶を育成する方法を開発した。また、国内外の研究グループが、「UTe2は超伝導内に境界があり、『低磁場超伝導』が、磁場をかけると新しい『高磁場超伝導』に移り変わる」ということを明らかにしていた。しかし、境界付近でどのような物理特性を示すかなど、その詳細は分からなかった。
そこで今回は、Tcを2.1Kに向上させた「超純良単結晶」と、東北大学金属材料研究所が開発した世界最高の磁場を発生できる「無冷媒超伝導磁石」を用い、磁場や温度の条件を変えながら、UTe2の超伝導特性を調べることにした。
今回の実験で大きな役割を果たしたのが、「無冷媒超伝導磁石」だという。通常の超伝導磁石では、15テスラ程度の磁場しか発生できず、UTe2の超伝導特性を調べるには不十分だった。今回用いた「25T-CSM」と呼ばれる無冷媒超伝導磁石は、現状で25テスラの磁場を発生できるという。
実験では、25T-CSMを活用し磁場角度方向の制御を精密に行い、超伝導の性質を調べた。UTe2に磁場をかけていくと、低磁場超伝導内にもう一つ境界があり、低磁場超伝導状態と高磁場超伝導状態とが入り混じった「新しい超伝導状態」が存在することを確認した。
今回の研究は、原子力機構先端基礎研究センター強相関アクチノイド科学研究グループの酒井宏典研究主幹や徳永陽グループリーダーらが、東北大学金属材料研究所の木俣基准教授や淡路智教授、佐々木孝彦教授、青木大教授らと共同で行った。
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