巨大なスピン振動による非線形の応答を観測:最大2テスラのTHz地場を発生
京都大学と東京大学、千葉大学、東京工業大学らの研究グループは、らせん状の金属メタマテリアル構造を反強磁性体「HoFeO3」に作製し、その内部に最大約2テスラのテラヘルツ磁場を発生させ、巨大なスピン振動による非線形の応答を観測した。
らせん状のメタマテリアル金属マイクロ共振器を新たに考案
京都大学と東京大学、千葉大学、東京工業大学らの研究グループは2023年4月、らせん状の金属メタマテリアル構造を反強磁性体「HoFeO3」に作製し、その内部に最大約2テスラのテラヘルツ磁場を発生させ、巨大なスピン振動による非線形の応答を観測したと発表した。
反強磁性体は、スピン集団運動モードがテラヘルツ帯域まで達し、磁気特性も超高周波まで対応可能だという。漏れ地場も少なく、素子の集積化に適した材料として期待されている。このため、テラヘルツ波で反強磁性体のスピン制御を行う研究が注目されている。ただ、反強磁性体のスピンを大振幅で共鳴的に励起する方法などが、これまではなかったという。
研究グループは今回、これまで開発してきたテラヘルツ発生技術と、新たに考案したらせん状のメタマテリアル金属マイクロ共振器を融合させることで、高強度テラヘルツ磁場パルスを、HoFeO3内部に発生させることに成功した。生成した磁場パルスは、直接スピン歳差運動を誘起することができるという。
実験では、励起に用いるテラヘルツ磁場強度を増加させたところ、ファラデー回転信号の波形が、非対称でひずんだ形状になることを確認した。この非対称な信号は、隣り合うスピンの和(強磁性ベクトルM)だけでなく、スピンの差(反強磁性ベクトルL)によってもたらされることが判明した。
しかも、ファラデー回転信号の周波数スペクトルには、強磁性ベクトルMの基準振動(0.58THz)に対し、2倍波(1.16THz)だけでなく、3倍波(1.74THz)の非線形信号を含んでいることが分かった。さらに研究グループは、高周波成分発生の選択則を決めるのが、「ジャロシンスキー・守谷相互作用によって反転対称性の破れたスピン系の磁気秩序と対応する系のエネルギーである」ことを理論的に示した。
今回の研究成果は、京都大学化学研究所の廣理英基准教授と金光義彦教授、章振亜博士後期課程学生、森山貴広准教授、関口文哉特定助教、工学研究科の向井佑特定助教と陰山洋教授、理学研究科の田中耕一郎教授、東京大学の古谷峻介特任研究員、千葉大学の佐藤正寛教授、東京工業大学の佐藤琢哉教授と山本隆文准教授らによるものである。
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