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編集者が選ぶ「2023年半導体業界の漢字」――「転」2023年 年末企画

2023年も間もなく終わりを迎えます。そこで、EE Times Japan編集部のメンバーが、半導体業界の“世相”を表す「ことしの漢字」を考えてみました。

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半導体不況から、過去最高に向けた成長への「転換点」

2023年の半導体業界の漢字

 筆者が選んだ漢字は「転」です。

 ことしの半導体市場がどうだったかと振り返ると、真っ先に頭に浮かぶ言葉は「半導体不況」ではないかと思います。メモリ不況でマイナス成長となった2019年以降、半導体市場は再び拡大を続けていて、前年の2022年は史上初の6000億米ドル超えを達成(市場調査会社Gartner調べ)し、過去最高を更新しました。ただし、読者の皆さんはご承知の通り、2022年は年間を通して調子がよかったわけではなく、実際には2022年半ばから急激に失速していて、2023年に入ってもその状況が継続。市場調査会社各社による市場調査内容やメモリメーカーをはじめとした半導体メーカーが発表する業績からも、その深刻さが伝わってきました。結局、2023年通年の市場は前年比10.9%減となる見通しになっています。

 こうした点から、当初、ことしの漢字には市場低迷の「迷」を選ぼうかとも思いました。ただ、米国半導体工業会(SIA:Semiconductor Industry Association)によれば半導体市場は2023年3月以降、単月でみると前月を上回る回復を続けていて、Gartnerや世界半導体市場統計(WSTS)の予測によれば2024年は前年から2桁パーセントの成長を遂げ、過去最高を更新する見込みとなっています。2023年は、2022年後半から続いた市場の低迷からこのような大きな成長へ再び歩みだす「転換点」となった年と考えることができるでしょう。

日本の半導体産業に「転機」

 さらに国内の半導体業界に目を向けると、(世界的にもそうですが)半導体の自国内製造能力の強化に向けた取り組みや、半導体産業への支援の動きが特に目立った年でもありました。

 経済産業省の「半導体・デジタル産業戦略」が策定されてから2年。当初はその実現可能性が疑われたTSMC誘致をはじめ、さまざまな取り組みが実現してきました。そして経産省は2023年にこの半導体・デジタル産業戦略を改定。先端ロジック、先端メモリ、産業用スペシャリティ(パワー半導体など)、先端パッケージ、製造装置/部素材と、分野別のロードマップと個別戦略を示し、日本の半導体産業の競争力強化に向けた施策を推進しています。

 TSMCの日本進出の発表は2021年で、既に工場は建設中ですが、2023年には第2工場設置の検討を進めていることを公式に認めた(発表はまだ)ほか、3nmプロセスを導入する第3工場やさらに微細プロセスを採用する可能性がある第4工場も検討中であることが報じられました。こうした動きを受け、TSMCが進出する熊本県をはじめとした九州では、その主要顧客になるとみられるソニーグループによる工場投資などの半導体メーカーのほか、装置、材料メーカーといった国内の半導体関連企業による投資が加速していて「『新生』シリコンアイランド九州」の実現が期待されています。

 日本政府は2023年度補正予算において、半導体産業への支援に約2兆円を充てることを決定。前年度の1兆3000億円から大幅に増加した形になっています。

 日本政府による支援を背景に、2023年5月にはMicron Technologyが広島の工場に最大5000億円を投じると発表したほか、12月には東芝とロームがパワー半導体の共同生産事業に最大総額3883億円を投資すると発表するなど、大型投資の発表も目立ったほか、直近ではSamsung Electronicsが、「3.xDチップレット技術」開発に向け、横浜市にパイロットラインを構築することを決定するなど、先端技術および後工程関連の開発強化に向けた大きな動きもありました。

 日本政府の支援先の筆頭として挙げられるRapidusについても、2023年、北海道千歳市への工場建設を決定/開始。さらに、IBMやimecに続き、2023年11月にはフランスLetiと提携し、1nmプロセスを適用する半導体の設計に必要な基礎技術を共同開発するというニュースも報じられた他、同月にはRISC-VプロセッサやAI(人工知能)チップを手掛けるTenstorrentとのパートナーシップ締結も発表。2023年は、2nmプロセス以下の生産というRapidusの目的に向けた具体的な動きが明らかになった年であり、また、周辺に拠点を設置することを決定する半導体関連企業も増加。新たな半導体エコシステムの構築が進もうとしています。

 2023年は、産業革新投資機構(JIC)によるJSRや新光電気工業の買収など、業界再編の動きも相次ぎました。パワー半導体業界では、ミネベアミツミによる日立のパワー半導体事業買収があった他、前述のロームと東芝の協業についても今後の統合を視野に入れたものという見方もあります(ロームは東芝買収に際して3000億円を出資)。また、成立はしませんでしたがWD(Western Digital)によるキオクシア買収なども話題となりました。

 このように2023年は、半導体業界にとって「転機」となる/なりうる出来事が多かった年だと思い、「転」を選びました。これらの転機が、日本の半導体産業の再興につながっていくことを願っています。


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