コロナ禍で「サポートの真空地帯」に ブロードマーケットの声を拾う商社を目指す:アフターコロナの調達網を探る(2)(4/4 ページ)
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによるサプライチェーンの混乱を経験した半導体/エレクトロニクス業界では、商社とサプライヤー、メーカーの関係性は少しずつ変化している。今回は、コアスタッフの社長である戸澤正紀氏と、アナログ半導体企業のエイブリックで取締役会長を務める石合信正氏が、それぞれ商社とサプライヤーの立場から、コロナ後の調達網について語った。
ブロードマーケットの“声”をサプライヤーに届ける
石合氏 顧客とのクオータリーミーティングに出席した際によく感じていたのが、そうした会議には、開発現場の状況や実態をしっかりと把握している参加者が、なかなかいらっしゃらないということです。ですから、戸澤さんがおっしゃっていた、マーケティングの機能やハブの機能を、商社側から提供してもらえるのは非常にありがたい。
われわれとしては、「製品がいくらで売れた」だけでなく、いただいた情報に対して有効性が検証されたら、それに対価をお支払いするという形でもいいのです。要は確度の高い情報がほしい。市場開拓につながる“ドアオープナー”となる機能を、商社に期待しているところもあります。
戸澤氏 当社は販売だけでなく、製品開発の領域でもサプライヤーとコラボさせていただいています。エイブリックさんにも関わってくるような、アナログフロントエンド(AFE)の開発を例に挙げると、製品開発マトリックス上にはまだ存在していないロードマップが、必ずあると思うんですよね。全てを開発するのは、リソース的に現実的ではありません。では開発のプライオリティはどうやってつけるのか。ティーチングカスタマーがいるような場合は問題ないのですが、AFEだと、まさしくターゲットがブロードマーケットになる。そのブロードマーケットのヒアリング機能を、われわれは持っています。サプライヤーの開発部署と直接意見を交換し、知りたい情報をお聞きして、その後われわれがブロードマーケットの関連メーカーにヒアリングを行う。そのヒアリング結果を、サプライヤーにフィードバックするという仕組みです。
つまり、「今後、サプライヤーが開発するであろう分野でどんな製品が売れているのか」という情報を、メーカー各社の開発動向を含めて提供できるわけです。そうした情報は、サプライヤーの開発者や設計者の方が見れば、「自社の製品開発マトリックスのどこに位置すべきものなのか」というのは、恐らく一発で分かるはずです。
実際にこんな例があります。オペアンプを手掛けるサプライヤーが、技術トレンドの観点から当然次の新製品は「レイルツーレイル(Rail to Rail)構成を開発すべき」と考えていたところ、当社のヒアリングにより、実はもっと汎用的なオペアンプのニーズが高いことが分かったのです。そのサプライヤーは、結果的に開発の方向を修正しました。
石合氏 情報を「双方向」に、提供し合えるということですね、それはとてもいい。「双方向」というのは非常に重要なキーワードだと思います。
――コロナ禍におけるサプライチェーンの混乱は、半導体商社とサプライヤーの関係性にも、少なからず変化をもたらしたといえそうです。今回は、ありがとうございました。
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