検索
特集

「CHIPS法」だけでは不十分、米国の半導体政策環境負荷の削減など課題は山積(2/2 ページ)

米国は、半導体製造の“自国回帰”を強化している。半導体関連政策に520億米ドルを投資する「CHIPS and Science Act」(CHIPS法)は、それを後押しする重要な法律だが、これだけでは十分とはいえない。環境負荷の削減など、より広い意味での持続可能性を持つアプローチを検討する必要がある。

Share
Tweet
LINE
Hatena
前のページへ |       

省エネに向けたプロセス改善が不可欠に

 半導体分野の技術的独立のために必要とされるもう一つの重要分野として挙げられるのが、エネルギー/プロセス削減を加速度的に進化させるという点だ。現在の半導体製造プロセスでは、刺激の強い化学物質や有毒ガスを使用するため、大量の水とエネルギーを必要とする。さらに、生成AI(人工知能)や自動運転などの新しいアプリケーションは、動作に膨大なエネルギーを必要とする。半導体需要が2030年までに倍増すると予測されている事実を受け、エネルギー効率向上の緊急性が浮き彫りになっている。

 2023年12月、連邦環境レビューを免除することによって半導体プロジェクトを迅速に推進することを目的とした条項が、重要な防衛法案から削除された。国家環境政策法に基づく審査に時間がかかると、新しいチッププロジェクトが遅れる可能性があるというのは正論だが、現在の政治情勢が、半導体分野の成長を促進しつつ、より持続可能な生産を可能にするバランスを求めているのは明らかだ。

 このことを念頭に置くと、より環境に優しい新しい工場プロセスやオペレーション、そしてより効率的に動作するチップを開発することが極めて重要である。チップ生産そのものを環境負荷の少ないものにするためには、生産設備への電力供給、生産プロセスのモニタリングと制御、廃棄物のリサイクルなどの新しいアプローチが必要になる。

 また、チップ産業にさらなる努力を促すために必要な政策指針や税制優遇措置、資金提供のインセンティブを提供するための追加的な法律も必要になると思われる。日本や韓国のような先進的な国々は、CO2の回収やメタンなど他の利用可能な燃料への転換、化学物質のリサイクルなど、既に同様の取り組みを進めている。

 チップのバリューチェーンは非常に複雑であり、無視することはできない。大胆な野望を達成するためには、米国は設計、材料、製造、流通にまたがるハードウェアおよびソフトウェア企業のネットワークという、エンドツーエンドのエコシステム全体を解決する計画を策定しなければならない。これは長期的かつ多面的な事業となる。

 技術革新への適切な投資がなければ、生産効率の向上に必要な人材がいなければ、そして持続可能性を強化しなければ、米国は半導体の世界的な主要生産国として歩調を合わせるのに苦労するだろう。CHIPS法は、その強力な出発点として捉える必要がある。

【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

前のページへ |       
ページトップに戻る