半導体業界を変える? SiCウエハーを活用し「グラフェントランジスタ」を製造:移動度はシリコンの10倍(2/2 ページ)
米ジョージア工科大学と中国天津大学の研究チームは、グラフェンを用いた機能性半導体の作成に成功したと発表した。SiCの結晶面で成長する単層のグラフェン(エピタキシャルグラフェン)を用いたものだ。
SiCウエハー上でグラフェンを製造
de Heer氏とジョージア工科大学の研究チームは当初、独自の構造を利用してSiCウエハー上でグラフェンを製造するための方法を開発した。そして、SiCの結晶面で成長する、単層エピタキシャルグラフェンの作成に成功した。研究チームは、エピタキシャルグラフェンを正しく合成すれば、SiCに化学的に付着し、半導体性の兆候を示し始めることを発見したのだ。
そして、ジョージア工科大学と天津大学の天津国際ナノ粒子・ナノシステムセンター(TICNN:Tianjin International Center for Nanoparticles and Nanosystems)とのパートナーシップ提携により、さらに多くの研究が可能になった。
グラフェンは自然状態では、金属でも半導体でもない半金属である。広帯域材料に電場をかけると、オン/オフを切り替えることができる。実践的なグラフェンエレクトロニクス研究における重大な問題は、どのようにグラフェンのオン/オフを切り替えれば、シリコンのように、そしてわれわれがよく知るトランジスタのように動作させることができるのかという点だ。
しかし、実用的なトランジスタを作るためには、問題となる材料を大幅に加工する必要がある。その半導体の実用性と機能性を確保する上で重要な鍵となるのは、半導体にダメージを与えることなくその電気特性を測定することだ。
問題になっているのは、いわゆるバンドギャップの欠如である。半導体は、上下のエネルギーバンドやバンドギャップと呼ばれる点によって特徴付けられ、励起電子は1つのバンドから別のバンドへと移動することができる。これにより、電流のオン/オフが可能になり、デジタルコンピュータで使われる0と1の2進法が生み出される。
研究チームは、「電子をシステムに放出する原子であるドナー原子を材料に追加することで、グラフェンをドープした。この手法は、物質やその特性に害を及ぼすことなく成功した。研究チームの測定結果から、成果物であるグラフェンの移動度は、シリコンの10倍になることが明らかになった」と述べている。
研究チームは、「われわれは、ナノエレクトロニクスで使用するために必要とされる全ての特性を備えた、これまでで唯一となる2D半導体を開発した。この半導体の電気特性は、現在開発中の他のどの2D半導体よりもはるかに優れている」と強調した。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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