これは確かに「スマートなホーム」だ NXPがCESで示したMatterの可能性:専門家は急速な市場成長を予測(2/2 ページ)
2022年10月にバージョン1.0がリリースされた、スマートホーム規格「Matter」。これまでは、Matterの真の利便性を示すことができるデバイスがほとんど存在しない状態が続いていたが、NXP Semiconductorsが「CES 2024」で展示したデモでは、Matterで実現するスマートホームの可能性が示されていた。
「CES 2024」に出展したNXPのデモ
NXPは、CES 2024で、Matterベースのデバイスを使い、住宅を単にスマートデバイスを集めただけの状態から、“完全に自動化された”状態へと進化させる方法を披露した。同社のグローバルマーケティングコミュニケーション部門担当マネジャーを務めるMichael Klein氏によると、既存の家庭用スマートデバイスは一般的に、「他のデバイスの存在」「それらのデバイスとの通信」「それらのデバイスを制御できるのか」などについては認識できないという。完全に自動化された住宅のビジョンとは、「デバイスが相互通信して互いの機能を利用し、協調的な体験を提供できる」というものだ。NXPは自社ブースにおいて、もともとMatterを搭載しているかどうかに関係なく、これらのデバイスがMatterを使用し、相互連携が可能になることで、住宅内の典型的なシナリオの中でこのビジョンをどう実現するのかを実演してみせた。
披露されていたシナリオの一部を簡単にまとめると、まず、ある家の住人が仕事から自宅に帰ったと想定する。住宅は、住宅所有者(住人)のスマートフォンや、住宅の外に設置されているセンサーによって、誰かが家に近づいていることを把握し、その個人を識別する。住人だった場合、住宅に入ることを許可して警報の動作を停止。ガレージのドアを開けて、屋内の玄関ドアの鍵を解錠する。住人が屋内に入ると、個人を識別し、屋内での位置も追跡する。個人の識別と位置は、Threadや各種デバイスのセンサー、Wi-Fi位置情報の利用などをベースとした、UWB(超広帯域)の固有の機能によって決定される。どの廊下を歩いても、どの部屋に入っても、その人の好みに合わせて環境が自動的に調整され、その空間から出ると、照明やエアコンが自動的にオフになったり、スタンバイモードになったりする。10代の子どもを持つ親にとっては、この機能は間違いなく価値あるものになるだろう。
また別のシナリオでは、住人が夕食の準備を始めると、住宅が「コンロが過熱状態になっていないか」を監視し、夕食の準備を初めた住人が注意を払っているかどうかに関係なく、住宅と住人の安全を確保するために適切な措置を取ることができる。
夕食後、住人が映画を見たいと思った場合、住宅は、住人がリビングルームに入ってきたことだけでなく、ソファの特定の位置に座ったということを判断するだけの知能を有している。住人のこうした行動や時間帯、“リモコンが手に取られた”という事実から、住宅は娯楽の時間であるということを理解する。自動的に照明を落として、ブラインドを閉め、住人が座っている位置と好みに合わせてテレビとサラウンドサウンドシステムをオンにし、スマートテレビのメディアストリーミングのアプリを立ち上げる。
映画やテレビ番組が終わり、就寝時間になると、住宅は、住人が寝室へ移動するのを(ここでもUWBと各種センサーを介して)感知し、所有者の好みに合わせた照明と冷房環境へと自動的に変更する。さらにドアをロックし、警報機を作動させる。これは全て、住宅所有者や他の居住者によって設定され、経時的な学習によってパーソナライズされたAI(人工知能)制御モデルによって実現することができる。
デバイスの中には、そもそも感知や推論、制御などの機能を備えていても、かなり制限されているものがある。Matterを使用すれば、住宅は各デバイスの機能をうまく利用して、“意図の全体像”を把握し、適切な措置を推測して、その推論に基づいて機器を制御できる。中には、「それなら、現在もZigbee/Z-Waveデバイスで実行可能だ」という声もあるかもしれない。それも、ある程度までは正しいが、これらの標準規格をサポートするデバイスだけに限られている。Matterであれば、Matter対応デバイスと他の標準規格対応デバイスの両方を利用できるようになるのだ。
Matterの市場はまだ新しい。だが、デバイスの種類や数を含め、Matterのエコシステムは急速に拡大しつつある。市場調査会社のTirias Researchは、Matterのエコシステムが、従来スマートホームデバイスを悩ませてきた断片化と相互運用性の問題に対処することに成功し、大規模な導入が目前に迫っていると予想している。
【翻訳:青山麻由子、田中留美、編集:EE Times Japan】
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