半導体の好況は「NVIDIAのGPU祭り」による錯覚? 本格回復は2025年以降か:湯之上隆のナノフォーカス(71)(4/4 ページ)
半導体の世界市場は2023年に底を打ち、2024年には本格的な回復基調に乗ると見られていた。だが、どうもそうではないようだ。本稿では、半導体の市況が回復しているように“見える”理由を分析するとともに、TSMCなどのファウンドリーの稼働状況から、本当の市場回復が2025年にずれ込む可能性があることを指摘する。
AIサーバの出荷台数の推移
図7に、2022年〜2026年にかけてのAIサーバの出荷台数の推移を示す。この予測によると、2022年に87.7万台だったAIサーバの出荷台数は、2023年に36.9%増えて120万台を超え、2024年には更に44.2%増えて170万台を超える。そして、2026年には約270万台が出荷されると予測されている。
図7:AIサーバーの出荷台数推移[クリックで拡大] 出所:Ken Kuo(TrendForce)、「全世界メモリ市場分析から来年AI未来の予測」(TreendForce産業フォーカス情報、2023年12月14日)のデータを基に筆者作成
では、このAIサーバは、全てのサーバにおいて、どのくらいの割合を占めているだろうか(図8)。この図によれば、AIサーバが全体に占める割合は、2022年に6%、2023年に9%、2024年に13%、2025年に14%、2026年に16%と予測されている。
図8:サーバの出荷台数、AIサーバの割合、AIチップ用ウエハーの割合[クリックで拡大] 出所:Joanna Chiao(TrendForce)、「TSMCの世界戦略と2024年半導体ファウンドリ市場の展望」(TreendForce産業フォーカス情報、2023年12月14日)のスライド
ChatGPTなどの生成AIは爆発的に世界に普及し続けている。従って、AIサーバの需要は非常に大きいと思われる。しかし、現実としては、AIサーバの出荷台数は思ったほど大きくはならないと言える。
AIサーバのボトルネック
この原因はAI半導体の供給律速にあると考えられる。現在、AI半導体の約80%を独占しているNVIDIAのGPUは、TSMCで前工程も後工程も行われている。その後工程では、CoWoSというパッケージングが行われるが、そのCoWoSのキャパシティーがボトルネックになっている。
また、CoWoSにおいては、GPUの周りにDRAMを積層したHBM(High Bandwidth Memory)が複数配置されるが、このHBMもボトルネックの一つになっていると思われる。というのは、NVIDIAにHBMを供給しているのは、主としてSK hynixであり、DRAMの王者のSamsungが出遅れているからだ。
このように、CoWoSのキャパシティーも足りない上に、HBMも十分供給されているとは言い難い。これに加えて、CoWoSのリードタイムが約半年もあり、その後、AIサーバを組み立てるのにも半年かかる。要するに、AIサーバを出荷するには、約1年の時間がかかるということである。
そして、図8の右の図には、世界のAdvanced Process(恐らく7nm以降)のキャパシティーに占めるAI半導体用ウエハーの割合が書かれている。2022年にわずか4%だったAI半導体用のウエハーは、2026年には倍の8%になると予測されている。
Logicの出荷個数はいつ増大するのか
この8%が大きいか、小さいか? 微妙なところであるが、2026年においても、残り92%がAI半導体用ではないチップにウエハーが消費されることになる。そして、そのほとんどがLogicである。従って、Logicの出荷個数が増大し、TSMCを筆頭とする主なファウンドリーの稼働率がフルキャパになるためには、スマホ、PC、サーバなどの電子機器の需要が大きくならなければならないということである。
要するに、今のままではNVIDIAのGPUに代表されるAI半導体が救世主になるとは思えない。その結果、世界の半導体市況が本格回復するのは、2024年は難しく、来年2025年にずれ込むものと考えられる。
ただし、その予測をひっくり返す、もう一つ別の(ポジティブな)可能性がある。
ここまで説明してきたAI半導体は、全てサーバに搭載されるものを意味していた。しかし、現在、PC、スマホ、タブレットなどの端末(エッジ)で、AI処理を行うという動きが出てきている。
例えば、Intelが提唱しているAI PCやSamsungがつくろうとしているAIスマホなどである。もしこれらが爆発的に普及すれば(つまりイノベーションが起きれば)、AI半導体市場が急拡大することになる。実際に、米調査会社のGartnerは、2024年末までに2億4000万台のAIスマホと5450万台のAI PCが出荷されると推定している(参考)。この予測が実現すれば、先端Logicの需要も(出荷額も出荷個数も)増大し、TSMCなどのファウンドリーの稼働率も上昇するだろう。加えて、MPUやメモリ需要も急拡大するに違いない。
つまり、このような世界が到来したなら、AI半導体が真の救世主になるはずだ。ということで、今後、筆者は、エッジAI半導体の動向に注力していきたい。
筆者プロフィール
湯之上隆(ゆのがみ たかし)微細加工研究所 所長
1961年生まれ。静岡県出身。京都大学大学院(原子核工学専攻)を修了後、日立製作所入社。以降16年に渡り、中央研究所、半導体事業部、エルピーダメモリ(出向)、半導体先端テクノロジーズ(出向)にて半導体の微細加工技術開発に従事。2000年に京都大学より工学博士取得。現在、微細加工研究所の所長として、半導体・電機産業関係企業のコンサルタントおよびジャーナリストの仕事に従事。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『「電機・半導体」大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文春新書)。2023年4月には『半導体有事』(文春新書)を上梓。
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