近赤外光を選択的に吸収する有機半導体材料を開発:分子軌道の対称性に着目して設計
大阪大学の研究グループは、近赤外光を選択的に吸収する無色透明の有機半導体材料を開発した。近赤外線カメラや有機太陽電池などに応用できる材料の開発につなげていく。
近赤外線カメラや有機太陽電池などに応用
大阪大学産業科学研究所の横山創一助教や家裕隆教授らの研究グループは2024年6月、近赤外光を選択的に吸収する無色透明の有機半導体材料を開発したと発表した。近赤外線カメラや有機太陽電池などに応用できる材料の開発につなげていく。
近赤外光は、太陽光に含まれているが視認できない光で、高い生体透過性や物質透過性といった特長を備えている。ただ、近赤外光に対して応答を示す有機半導体の分子設計について、これまでは明確な指針が示されていなかったという。
研究グループは今回、分子軌道の対称性に着目し、新たな設計手法を採用した。そして、可視光範囲で起こりうる電子遷移を「禁制」、近赤外光領域の電子遷移のみを「許容」となるような分子軌道配置とした。実際に設計した「Py-FNTz-B分子」は、理論計算により近赤外光域に相当するHOMO(最高被占軌道)→LUMO(最低空軌道)遷移が「許容」となり、可視域で起こるHOMO→LUMO+1遷移とHOMO−1→LUMO遷移はいずれも「禁制」になることが分かった。
電子遷移が異なる原因については、軌道遷移に伴って軌道の称性が保持される場合は「禁制」となり、軌道対称性が逆転する場合は「許容」になるという、Laporteの規則を用いて説明した。
合成した分子の物性を調べた。この結果、Py-FNTz-Bは近赤外光選択的な吸収特性を示し、溶液やフィルム状態で無色透明な特性を示した。開発した分子をベースに、有機電界効果トランジスタを作製した。これに近赤外光を照射すると電流増幅が起こり、吸収スペクトルに応じて選択的な光センシングが可能なことを実証した。
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