安価にキャパシター容量を向上させる電極を開発:907F/gACの比静電容量を達成
東北大学とAZUL Energyらによる研究グループは、鉄アザフタロシアニン(FeAzPc-4N)を活性炭にまぶし、分子レベルで吸着させたキャパシター用電極を開発した。この電極を用いれば、ナノ炭素を用いるスーパーキャパシター並みの容量を安価に実現できるという。
鉄アザフタロシアニンを分子レベルで吸着させた活性炭を活用
東北大学とAZUL Energyらによる研究グループは2024年6月、鉄アザフタロシアニン(FeAzPc-4N)を活性炭にまぶし、分子レベルで吸着させたキャパシター用電極を開発したと発表した。この電極を用いれば、ナノ炭素を用いるスーパーキャパシター並みの容量を安価に実現できるという。
電気二重層キャパシターは、電極表面に電荷を貯めることで高速な充放電ができる。ただ、静電容量が数十〜100F/g程度と小さく、その用途は限られていた。そこで、電極にカーボンナノチューブ(CNT)やグラフェンといったナノ炭素を採用することで容量を増やす方法などが用いられてきた。ただ、部材コストが高くなるなど課題もあった。RuO2などのナノ粒子を混合して高容量化を実現する方法などもあるが、環境負荷が大きくなるため、新たな対応が求められていた。
研究グループはこれまで、FeAzPc-4Nを炭素粒子に分子吸着させ、高い酸素還元反応(ORR)活性を示す触媒を開発、金属空気電池や燃料電池の正極触媒として、その応用を検討してきた。そして今回、FeAzPc-4Nを分子レベルで活性炭にまぶせば、キャパシターの疑似容量として活用できないかと考えた。
実験では、FeAzPc-4Nと活性炭の混合比率が異なる電極を作製し、そのキャパシター性能を測定した。この結果、混合比が30%までは容量が線形に増加し、40%を超えると傾きが上昇することを確認した。混合比が60%になると、容量は907F/gACに達した。この値は、活性炭のみに比べ2.6倍だ。
表面の元素分析などから、混合比が30%までは FeAzPc-4N分子が活性炭に分子担持され、40%を超えると分子担持しきれなかったFeAzPc-4Nが結晶を形成することが分かった。この結晶が容量の増加に寄与していることを確認した。
上が鉄アザフタロシアニン分子を分子吸着した活性炭の模式図、左下が容量・活性炭単体に対する容量増加率、下中央は20A/gACで充放電を繰り返した場合の容量と容量維持率、右下は2個のキャパシターセルを直列につないだ簡易充放電セルによるLEDの点灯実験[クリックで拡大] 出所:東北大学
さらに、活性炭の比表面積が十分に大きい場合、FeAzPc-4Nを活性炭に分子担持する方が、活性炭とFeAzPc-4N結晶を混合した場合に比べ、より大きな容量になることが分かった。作製した電極は、20A/gACという高負荷領域で2万回の充放電サイクルが可能で、高い耐久性を備えていることを確認した。作製したキャパシターセルを直列に2個つなぎ、2Vで駆動するLEDの点灯にも成功した。
今回の研究成果は、東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)の藪浩教授(主任研究者、同研究所水素科学GXオープンイノベーションセンター副センター長)と、東北大学発ベンチャーのAZUL Energyおよび、両者が4月1日に共同で設置したAZUL Energy×東北大学バイオ創発GX共創研究所らによるものである。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 量子ビット制御超伝導回路を提案、原理実証に成功
産業技術総合研究所(産総研)は、横浜国立大学や東北大学、NECと共同で、大規模量子コンピュータに向けた量子ビット制御超伝導回路を提案し、原理実証に成功した。1本のマイクロ波ケーブルで1000個以上の量子ビットを制御することが可能となる。 - 超伝導の性質を示す岩塩型酸化ニオブを合成、転移温度は最高7.4Kに
東北大学の研究グループは、東京大学と共同で岩塩型NbO(酸化ニオブ)の合成に成功した。得られた岩塩型NbOは超伝導の性質を示し、転移温度は最高7.4Kであった。 - 室温で強磁性を示す希土類酸化物を発見、スピントロニクス材料として期待
東北大学や東京都立大学、東京大学らによる研究グループは、準安定で高純度の酸化ガドリニウム(GdO)薄膜の合成に成功。このGdOが強磁性体で、キュリー温度は最高303K(30℃)であることを確認した。 - 「ニボシの中身がよく見える」 直接変換型X線イメージセンサーの作製技術を確立
東京大学と東北大学はジャパンディスプレイ(JDI)と協力し、臭化タリウム(TlBr)を用いて、高精細・高感度の「直接変換型X線イメージセンサー」を作製する手法を確立した。超大型X線イメージセンサーやフレキシブルセンサーなどに適用していく。 - ハイブリッド磁性体で強いフラストレーションを実現
東京大学と東北大学は、英ラフバラー大学や独ライプニッツ固体・材料研究所と共同で、有機分子と硫酸銅が積層した有機無機ハイブリッド物質の磁気的性質を調査し、幾何学的フラストレーションの効果が極めて強い二次元磁性体であることを明らかにした。 - 強誘電体の分極反転挙動をナノスケールで観測
東北大学と東京工業大学の研究グループは、強誘電体の分極反転挙動をナノスケールの空間分解能で、かつ短時間に観測できる顕微鏡手法を開発した。材料特性の改善や新たなデバイスの開発につながるとみられる。