ペロブスカイト発光ダイオードで近赤外円偏光を発生:外部から磁力を加えながら電圧印加
近畿大学と大阪公立大学は、ペロブスカイト量子ドットを発光層に用いた発光ダイオードを作製し、これに外部から磁力を加えて、「近赤外円偏光」を発生させることに成功した。加える磁力の方向を変えれば、近赤外円偏光の回転方向を制御できることも明らかにした。
加える磁力の方向を変えれば、近赤外円偏光の回転方向も制御可能
近畿大学理工学部応用化学科の今井喜胤教授と大阪公立大学大学院工学研究科の八木繁幸教授らによる研究グループは2024年6月、ペロブスカイト量子ドットを発光層に用いた発光ダイオードを作製し、これに外部から磁力を加えて、「近赤外円偏光」を発生させることに成功したと発表した。加える磁力の方向を変えれば、近赤外円偏光の回転方向を制御できることも明らかにした。
偏向とは、特定の方向に振動する光のこと。その中でも電場および磁場の振動がらせん状に回転しているものは「円偏光」と呼ばれる。円偏光は3D表示用有機ELディスプレイなどに採用されている。近赤外光は波長領域が700n〜1400nmで、センサーや光通信といった用途で用いられている。
肉眼では見えない「近赤外光の性質」と「光の偏光特性」を組み合わせれば、より高精度で高感度のセキュリティデバイスやセンサーを実現できる。ただ、近赤外円偏光を発生させても、現行手法だと十分な輝度が得られず実用化が難しかったという。
研究グループはこれまで、アキラル(光学不活性)な分子を用い、円偏光を発生させる方法を開発してきた。アキラルなペロブスカイト量子ドットを用いた円偏光の発生にも成功している。
そこで今回、ペロブスカイト量子ドットを用いた発光デバイスから、高輝度の近赤外円偏光を発生させるための研究に取り組んだ。実験では、アキラルなペロブスカイト量子ドットを発光層に用いた発光ダイオードに対し、外部から磁力を加えながら電圧を印加した。これにより、近赤外円偏光を発生させることに成功した。
また、磁力の方向を変えたところ、光の回転方向を反転させることができた。これにより、「右回転近赤外円偏光」と「左回転近赤外円偏光」の両方を選択的に取り出すことが可能となった。
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