日本の20倍もの学生が毎年卒業する中国の大学教育:福田昭のデバイス通信(466)ECTC現地レポート(4)(4/4 ページ)
「ECTC 2024」のプレナリーセッションの最終日(2024年5月31日)には、半導体業界の人材育成に関するパネル討論が行われた。その中から中国Central South University(中南大学)と米国Texas Instrumentsの講演を紹介する。
2030年までに11万4800人を追加雇用したい米国の半導体産業
最後に米国の大手半導体メーカーTexas InstrumentsでUniversity Research and Technology担当ディレクタをつとめるJim Wieser氏が「Microelectronics Workforce Needs Critical and Broad(マイクロエレクトロニクス人材への要求は切実かつ多岐にわたる)」のタイトルで講演した。
Texas InstrumentsのJim Wieser氏によるショート講演のスライド(トップ)。講演のタイトルは「Microelectronics Workforce Needs Critical and Broad(マイクロエレクトロニクス人材への要求は切実かつ多岐にわたる)」。5月31日午前(現地時間)に筆者が撮影したもの[クリックで拡大]
講演では、2030年までに半導体産業が追加で必要とする従事者数を11万4800人と推定した。6年でこの需要を満たすには、年間で1万9000人を超える雇用を継続する仕組み(「パイプライン」と呼称)を構築しなければならない。
半導体産業およびパッケージング産業における人材の将来需要と、その対策である人材育成(Workforce Development)手法のまとめ。Wieser氏によるショート講演のスライドを筆者が撮影したもの[クリックで拡大]
パイプラインの実現には3つのアプローチが必要だとする。1つは「モデリング(モデル化)」、もう1つは「エンゲージメント(会社と従業員のつながり)」、最後は「ハートアンドマインド(心をつかむ)」である。「モデリング(モデル化)」では、どのような人材が必要か(what)をKSA(Knowledge:知識、Skill:技能、Attitude:心構え)分類し、必要とする時期(when)と場所(where)とともに明示した。
「エンゲージメント(会社と従業員のつながり)」では経験の共有や研修、相談者(メンター)、インセンティブなどを重視する。企業による取り組みがカギとなる。「ハートアンドマインド(心をつかむ)」では、「世界を変革する」といった動機付け、小学校から高等学校までの12年間(K-12)の期間に「半導体の存在を生徒に気付かせる」ことなどが重要だとした。
「半導体の存在を生徒に気付かせる」とは、K-12(初等学校から高等学校まで)の期間に生徒が半導体のことを知る機会を設けることを意味する。そもそも普通は、産業材である半導体のことを生徒は知らないからだ。そこで「半導体とは何か」から始まり、「半導体の有用性(価値)」「半導体産業でのキャリアパス」「社会的なインパクト」などを知ってもらう。中等学校では始めたい。
半導体産業における人材育成と学校教育課程の関わり。左は生徒や学生などへの働きかけと、必要とされる人材の内訳。右は生徒と学生の教育と就職のフロー。最上段が高等学校の段階、最下段が大学院を卒業してアカデミアに在籍する段階。その右の数字は、半導体産業と他産業の就職者数。例えば高等学校(High School)に入学した456万8000人の中から、8000人が半導体産業に、189万7000人が他産業に就職する。大学(学部)に進学するのは268万人である。Wieser氏によるショート講演のスライドを筆者が撮影したもの[クリックで拡大]
生徒と学生の教育と就職のフロー(前図の右半分)。研究コンソーシアムのSRCが2023年に発行した「MAPT(Microelectronics and Advanced Packaging Technologies)ロードマップ」の人材育成(WFD:Workforce Development)について記した第11章(Chapter 11)の図11.3から引用した[クリックで拡大]
重要なことは、高等学校(High School)から大学(Undergraduates)、大学院(Graduates)へと進学する課程で、生徒や学生などのほとんどは他産業に就職するという事実である。高等学校から大学院修了までを概観すると単年度ベース(2021年)で他産業には468万9000人が就職するのに対し、半導体産業に就職する人数は1万9000人にすぎない。
そこで米国民が10代半ばの段階から、半導体産業の重要性や働きがいなどを啓蒙していくことで、他産業へと就職する流れを半導体産業へと導く。現在、半導体産業の従事者の60%〜70%は技能者(technician)であり、学位取得者ではない。そしてこの層で人手が足りない。粗く言ってしまうと「高卒人材」の獲得が最も重要であり、産官学連携による行動が急務だとする。
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