高機能反射板による電波伝搬環境の改善効果を簡便に予測:Beyond 5Gで容易にエリアを拡大
東北大学は、英国サリー大学やノッティンガム大学と共同で、高機能反射板を用いた電波伝搬環境下における無線通信システムの性能を解析的に表現する手法を開発した。この手法を用いることで、複雑で時間を要する数値シミュレーションやコスト高となる実験を行わなくても、高機能反射板による電波伝搬環境の改善効果を予測できるという。
RISの性能評価に複雑な実験や数値シミュレーションは不要
東北大学大学院工学研究科通信工学専攻の今野佳祐准教授らは2024年7月、英国サリー大学のガブリエル グラドニ教授および、ノッティンガム大学と共同で、高機能反射板を用いた電波伝搬環境下における無線通信システムの性能を解析的に表現する手法を開発したと発表した。この手法を用いることで、複雑で時間を要する数値シミュレーションやコスト高となる実験を行わなくても、高機能反射板による電波伝搬環境の改善効果を予測できるという。
Beyond 5Gなど高周波帯の電磁波を用いた次世代無線通信システムでは、電波の届かないエリアをなくすため、電波の伝搬方向を自在に制御できる高機能反射板「RIS(Reconfigurable Intelligent Surface)」の活用が注目されている。障害物の背面にも電波を向けることが可能で、基地局を増設するより安価にサービスエリアを拡大できるからだ。ただ、RISによる電波の伝搬環境について、その改善効果を予測するにはこれまでの方法だと、多くの時間やコストが必要となっていた。
今野准教授らは、任意形状の送受信アンテナとRISからなる無線通信システムで、これらの相互結合がモーメント法のインピーダンス行列として表現できることに着目した。そして、インピーダンス行列を送信アンテナ、受信アンテナ、RISに対応したブロック行列の形に分解し、これらに成り立つ行列方程式を逐次的に解いて、チャネル容量の厳密な表現を解析的に導き出した。また、送受信アンテナとRISが十分に離れている環境下において成り立つ近似についてもその表現に適用し、チャネル容量の簡易な表現を導き出した。
これらの表現を用いれば、RISを用いた電波伝搬環境下における無線通信システムの性能を容易に算出できるという。こうして得られた結果は、従来の数値シミュレーションで得られた結果とほとんど完全に一致することが分かった。
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