RISC-Vに傾倒する欧州 「戦略的に必須」:「保守的な投資」が障壁に(2/2 ページ)
欧州の半導体業界は、RISC-Vへの注力をますます強めている。ただし、欧州での半導体投資が米国ほどダイナックではないことに懸念を示す業界関係者も存在する。さらに、ドイツなど国によっては技術を製品化する際にも幾つかの制約があるという。
欧州の「保守的な投資」 米国とは対照的
欧州のRISC-Vエコシステムは、米国のそれとはまるで対照的だ。米国で顕著にみられるのが、産業界主導型の研究資金提供の文化である。米DARPA(国防高等研究計画局)のようなプログラムは、大学が産業界パートナーと協業することを積極的に推奨しており、研究から商用製品へのよりスムーズな移行をサポートしている。
しかし欧州では、このような協業の規模や性質が異なる。Wallentowitz氏は、「欧州でも産学連携は行われているが、米国のようなダイナミクスに欠けている場合が多い。問題は、産業界がけん引する革新的なエコシステムが存在しないという点だ。欧州の産業界はより保守的で、商業化に取り組む前に実証可能な成果を求める傾向が大きい」と述べる。
Cervero氏もこの見解に同意し、「欧州の投資家たちはリスク回避傾向が強く、投資の前に、成功可能性を示す具体的な証拠を求める傾向がある。欧州の投資は、米国よりもはるかに保守的だ。企業は、その機能を搭載した製品を2年以内に実現できるという確約を得ようとする」と指摘する。
RISC-Vが欧州で発展の道筋をたどる上で重要な側面の1つとなるのが、製造能力だ。欧州の研究者たちは、製造施設へのアクセスを低コストで提供してくれる企業との取引に頼る場合が多い。このような取引は、インフラ関連の制約を克服し、生産を拡大していく上での戦略的パートナーシップの重要性を浮き彫りにしている。
Wallentowitz氏やCervero氏の他、さまざまな専門家たちが、欧州機関が、米国や日本、ブラジルなどをはじめとする国際的なパートナーとの協業を模索している幅広い傾向を明らかにした。このようなパートナーシップは、専門知識を共有して、リソースにアクセスし、欧州のRISC-Vイノベーションが世界レベルで競争力を維持していく上で不可欠なものとなる。
こうした課題は残っているが、欧州におけるRISC-Vの未来は明るい。RISC-Vはオープンソースであるため、さまざまなアプリケーションに幅広く普及し、適応が可能であるという独自のメリットを提供することができる。Wallentowitz氏は、「RISC-Vはこの先5年間で、恐らく2027年までには、産業アプリケーションの中でも特にオートメーション分野に大きく普及していくだろう」と述べる。
Cervero氏は、「幅広い普及は、消費者志向の小型デバイスから始まるのではないだろうか。RISC-Vは、このような分野での成功を実証することによって優れた実績を築き、自動車分野のように、欧州が重要な専門知識を確保しながら厳格な検証/認証を必要とする分野において、幅広い活用が促進されていくだろう。有用なデバイスを短期的に低価格で入手することが可能な、小型のIoTデバイスから始めるのが最善の方法だといえる」と述べている。
欧州の協業精神は、国境を超えて広がっている。「Bavarian California Technology Transferイニシアチブ」のような機関は、多様なインプットでRISC-Vエコシステムを強化し、その影響力を拡大することが可能な、国境を越えたパートナーシップの好例だといえる。
RISC-Vは「戦略的に必須」
RISC-Vは欧州にとって単なる技術的進歩ではなく、戦略的に必須である。世界的な半導体の競争が激化する中、欧州がRISC-Vに投資することは、技術的なリーダーシップの拡大に向けた動きを意味する。学術界と産業界の架け橋となる強固なエコシステムを育成することで、欧州はイノベーションを育成し、それが具体的な経済的、戦略的利益につながるようにする。
欧州におけるRISC-Vの前途は、チャンスとチャレンジの両方が待ち受けている。継続的な協力関係、戦略的投資、商業化への注力により、欧州はRISC-Vの可能性を最大限に活用し、半導体業界におけるオープンソースイノベーションの新時代を推進する態勢を整えている。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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