EUVペリクルとして期待されるCNT 課題は製造法:Canatuが乾式生産法を開発(2/2 ページ)
EUV(極端紫外線)リソグラフィに使うペリクルの素材として注目を集めているのが、カーボンナノチューブ(CNT)だ。CNTにはメリットも多いものの、EUVペリクルに応用するには、生産法が課題になる。フィンランドCanatuは、CNTの新しい製造法の開発に取り組んでいる。
EUVペリクルとして期待されるCNT
CNTは、1990年代に発見されて研究所から登場し、多くの用途に向けた魅力的な高性能材料となった。しかし、その半導体製造におけるナノ材料としての潜在的用途については、まだ十分に理解されておらず、実行にも至っていない。CNTは、宇宙で最も汎用的な材料である炭素をベースとするグラフェンを円筒状に丸めた構造を持ち、電気的、機械的、光学的、化学的、熱的特性を高めることが可能な、非常に優れた物理的特性を備える。
半導体製造でEUVリソグラフィが始まってから、ペリクルの役割は大きく変化した。半導体メーカーは新しいEUVプロセスの中で、フォトマスクを保護する際のさまざまな課題に直面し、それに対応すべく、EUVに特化したペリクルを作り出した。ポリシリコンで作られたEUVペリクルが期待したほど機能しなかったため、業界ではCNTのような、より優れた新しい代替材料の試験が開始されたのだ。
CNTの生産に必要なイノベーション
この有望な新しいナノ材料から成るEUVペリクルは、これまでの材料と比べて性能が向上しているが、CNTの最大の可能性を引き出すためには、生産方法を再検討する必要がある。既存のCNT製造プロセスでは、液体分散法や超音波処理などの過酷な技術を適用する場合が多く、それがCNTの繊細な構造にダメージを及ぼし、その並外れた透過率や均一性、堅牢性といった最大の可能性を引き出す上での妨げとなっているからだ。
実際に、分散などの湿式法ではCNTが凝集して束となったり、汚染されたり、個々のCNTが短くなったりして、強度と性能が損なわれている。CNTを分散させるとCNTが損傷され、結果として透過率が大幅に低下し、引張強度が下がる。半導体メーカーは、このような低品質のCNTから成るEUVペリクルを利用することで、EUVリソグラフィの強度や熱などの性能を低下させるというリスクを冒しているのだ。
これに対し、ナノ材料の専門家たちは、CNTの特性を阻害しないよう保護することが可能な、代替製造手法を開発した。Canatuが開発し特許を取得したdry despositionは、こうした問題を克服することができる。この新しい乾燥沈殿法では、CNTの総合的な健全性を脅かしたり損なったりする既存の湿潤分散法を回避し、十分な長さを持つ本来のCNTを製造することが可能だ。
dry deposition技術は、高コストの多段階製造に求められる、非常に複雑かつ厳しい要件を超える成果を達成する。このため、個々のチューブの均一性や透過率、引張強度(鉄の10倍超の強度)が非常に優れた、より長くてクリーンな欠陥のないCNTを製造することが可能だ。そして最も重要なのが、このようなCNTは、高いEUV光透過率を維持するため、EUVリソグラフィの性能向上を実現する上での最適な候補となっているという点だ。
また、工場ではdry deposition法が下流の工程に影響を及ぼすのは明らかだ。EUVリソグラフィにおいて、dry depositionによって作られたCNTから成るEUVペリクルを使用することで、フォトマスクに欠陥が生じないよう保護し、精度を高めて処理を短縮することができる。簡単に言うと、フォトマスク上の汚染粒子が減少すれば、欠陥数を低減でき、さらに(コストのかかる)半導体チップの不良率も低減できるということだ。その結果、半導体アプリケーションで使われている既存のEUペリクルと比べると、生産性を15%向上させられる(1時間当たりのウエハー処理枚数で算定)。高価なASML製リソグラフィ装置を使用する必要性も低くなるため、さらなるコスト削減が可能だ。さらに、強度が高まることで、次世代の高性能スキャナーで使われるEUVペリクル向けの最も有望な材料として、優位性を確立することができる。
半導体メーカーは今後も、将来のAI/次世代チップの短中期的な需要に対応すべく、可能な限り生産性の向上とコスト削減を追求し続けていくとみられる。同時に、より強力な未来の半導体チップをサポートする技術/高性能材料のための基礎を構築していくだろう。
【翻訳:滝本麻貴、田中留美、編集:EE Times Japan】
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