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最大の壁、p層を克服!酸化ガリウムでFLOSFIAが達成した「世界初」MOSFETでノーマリーオフ10A超の動作

FLOSFIAが、「世界で初めて」(同社)酸化ガリウム(α-Ga2O3)MOSFETでノーマリーオフ特性を有する10A超の大電流動作を実現した。酸化ガリウムパワー半導体開発において、最大の課題とされてきた「p層」(導電型p型半導体層)の改良に成功した。

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 FLOSFIAは2025年7月1日、「世界で初めて」(同社)酸化ガリウム(α-Ga2O3)MOSFETでノーマリーオフ特性を有する10A超の大電流動作を実現したと発表した。酸化ガリウムパワー半導体開発において、最大の課題とされてきた「p層」(導電型p型半導体層)の改良に成功し実現した。

実用的な量産デバイス製造に向けた「最大の壁」

 酸化ガリウム半導体のMOSFET構造を作製するうえで、「p層」は材料としての高い性能ポテンシャルを引き出すために本質的に重要な役割を持っている。一方でFLOSFIAによると、他機関が報告するアプローチの多くは、現状の技術難易度からp層を採用せず、デバイス構造をシンプル化した方法を用いているという。

 FLOSFIAは「本来の酸化ガリウム材料の高い性能(高耐圧/低損失)を引き出し、実用的な量産デバイスを製造するためには、p層を活用したデバイス構造が有効だ」という見解の元、独自の「ミストドライ」法によって、酸化ガリウム半導体におけるp層形成技術を推進。既にJBS(ジャンクションバリアショットキー)構造ダイオードでは製品レベルのサンプル実証を達成している。

 今回、同社はさらに技術難易度が高いMOSFETへのp層適用を目指し、独自技術を高度に改良したうえで新規MOS構造形成プロセスを開発し、デバイスへの組み込みに成功したという。これによってFLOSFIAは今回、ノーマリーオフ動作や大電流特性といったMOSFETにおける重要機能を、酸化ガリウム半導体として「世界で初めて」(同社)達成したとしている。

試作したMOSFETの模式図(上)とチップ写真(下)
試作したMOSFETの模式図(上)とチップ写真(下)[クリックで拡大] 出所:FLOSFIA

ゲート電圧15Vで、ドレイン電流14.3Aの通電に成功

 具体的には、FLOSFIA独自のミストドライ法で作製した高品質なα-Ga2O3を用いて耐圧600V級デバイスのエピタキシャル層を形成し、微細化/低オン抵抗化に有利なトレンチゲート型MOSFETを作製した。MOSFETのオン抵抗の大きな部分を占めるチャンネル領域の抵抗を低減するため、p層を活用した新規開発のMOS構造形成プロセスを適用。p層は高速スイッチング時のアバランシェ破壊耐量を上げるためにも有効となる。さらに、約10μmに超薄膜化したα-Ga2O3 MOSFETを金属支持基板に転写することで、高い通電能力と炭化ケイ素(SiC)並みの高放熱特性を持つ縦型素子構造を実現したとしている。

開発中のトレンチゲート型MOSFETの断面模式図(左)と試作したトレンチゲート部分の電子顕微鏡写真(右)
開発中のトレンチゲート型MOSFETの断面模式図(左)と試作したトレンチゲート部分の電子顕微鏡写真(右)[クリックで拡大] 出所:FLOSFIA

 作成したα-Ga2O3 MOSFETは、ゲート電圧15Vにおいて、ドレイン電流14.3Aの通電に成功。ゲート電圧0Vではドレイン電流が流れないノーマリーオフ特性を実現している。なお、通電エリアの特性オン抵抗は17mΩ・cm2で、同社は「今後のMOS構造形成プロセスのさらなる改良とトレンチゲート構造の微細化により、SiC-MOSFETを凌駕(りょうが)する低損失性能を追求していく」と述べている。

ドレイン電流 - ゲート電圧特性
ドレイン電流 - ゲート電圧特性[クリックで拡大] 出所:FLOSFIA

 FLOSFIAは「今後、本成果を基盤に耐圧構造の導入、高耐圧化および製品化に向けた信頼性確保等の研究開発を一層加速していく」と説明している。

 同社は現在、京都大学近郊のマザー工場において月産100万個規模の量産技術基盤の整備を進めていて、2026年度以降の本格量産開始を計画しているという。

 なお今回の研究成果は、防衛装備庁「安全保障技術研究推進制度」の支援を受けて得られたものとしている。

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