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二極化した半導体市場――日本はどうするべきか?大山聡の業界スコープ(90)(3/3 ページ)

AI需要を背景にロジックとメモリへ集中する半導体市場で、MCUやアナログ主体の日本は取り残されつつある。先端分野への投資不足が続く中、DRAMメーカーの誘致や強い企業への支援、設計力強化が急務だ。今こそ実効性ある政策が求められる。

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日本が今取り組むべき3つの半導体政策提言

 日本政府は、この現状を十分に理解しているはずである。かつての日系大手企業をアテにすることはできない。だからこそTSMCを熊本に誘致し、Rapidusを北海道・千歳で立ち上げようとしているのだ。Rapidusで2nmプロセスが成功するかどうかまだ分からないが、政府として打つべき手は打ち、可能な限りサポートしているように見受けられる。ちなみに筆者は与党を支持しているわけではないが、半導体産業を重要視している現在の政策には賛成なので、何とかこの方針は維持してもらいたい。これを前提に、日本として行うべき半導体政策について述べさせていただく。

①DRAMメーカーの誘致

 AIの普及でメモリ需要が拡大していることはすでに述べたが、特に拡大しているのはDRAMである。国内では唯一、Micron広島工場がDRAMを生産しているが、これだけではシェアの拡大どころか維持すら困難だろう。Micron自身、今後は米国内の生産比率を増やす計画だ、というコメントも出している。Samsung Electronics、あるいはSK hynixといった大手DRAMメーカーを日本に誘致することを検討することが効果的と思われる。

 あるいは、NANDフラッシュ専業のキオクシアにDRAM事業を立ち上げてもらい、これを政府が徹底支援する、という手段も考えられよう。

②大手電子部品メーカーへの半導体事業支援

 これも筆者が再三主張していることだが「弱体化した企業や事業を支援する」ことは必要だが、「強い企業に半導体をやらせ、それを支援する」という考え方も必要だと思う。例えばニデック、村田製作所などには、世界中のデータセンター、PC/スマホメーカーから最新情報が寄せられている。彼らは「今どんな半導体が求められているか」をリアルタイムで把握しているのである。半導体事業に必要なのは技術や資金だけでなく、情報も不可欠だ。また「強い企業にカネを出す方が効果的」という考え方も重要だろう。強い電子部品メーカーには、政府から積極的にアプローチして、半導体事業を勧めてもらいたい。

③半導体設計に関するインセンティブ設定

 「半導体産業が重要だ」というのは大前提だが、「なぜ重要なのか」を考えると、「最先端システムに不可欠だから」「AI実現に最先端半導体が必要だから」など、その活用方法が具体化される。Rapidusで2nmプロセスが立ち上がるのなら使ってみたい、と考える顧客候補は40社以上いるそうだが、その全てが北米企業とのこと。現在人間が行っている作業の多くがAIに置き換わる、といわれている。その具体的なアイデアが全て北米発である必要はない。むしろ、日本ならではのAIシステムがあっても良いし、そうあるべきだと筆者は思っている。日系企業が得意とするシステムは数多く存在するが、そのシステムノウハウを半導体で実現する、という行為を活性化させるために、政府は何らかのインセンティブを設定することが効果的ではないだろうか。

「過去」にすがらず「未来」に投資せよ

 すでに述べてきたことを繰り返し主張した部分もあるが、昨今の半導体市場の現状や見通しを踏まえ、改めて強調したいことを述べてみた。ご意見やご感想など、お寄せいただければ幸いである。

連載「大山聡の業界スコープ」バックナンバー

筆者プロフィール

大山 聡(おおやま さとる)グロスバーグ合同会社 代表

 慶應義塾大学大学院にて管理工学を専攻し、工学修士号を取得。1985年に東京エレクトロン入社。セールスエンジニアを歴任し、1992年にデータクエスト(現ガートナー)に入社、半導体産業分析部でシニア・インダストリ・アナリストを歴任。

 1996年にBZW証券(現バークレイズ証券)に入社、証券アナリストとして日立製作所、東芝、三菱電機、NEC、富士通、ニコン、アドバンテスト、東京エレクトロン、ソニー、パナソニック、シャープ、三洋電機などの調査・分析を担当。1997年にABNアムロ証券に入社、2001年にはリーマンブラザーズ証券に入社、やはり証券アナリストとして上述企業の調査・分析を継続。1999年、2000年には産業エレクトロニクス部門の日経アナリストランキング4位にランクされた。2004年に富士通に入社、電子デバイス部門・経営戦略室・主席部長として、半導体部門の分社化などに関与した。

 2010年にアイサプライ(現Omdia)に入社、半導体および二次電池の調査・分析を担当した。

 2017年に調査およびコンサルティングを主務とするグロスバーグ合同会社を設立、現在に至る。


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