SiCの20年 ウエハーは「中国が世界一」に、日本の強みは何か:京都大学 工学研究科 教授 木本恒暢氏(3/3 ページ)
次世代パワー半導体材料として注目度が高まる炭化ケイ素(SiC)。SiCパワーデバイスの研究開発は2000年代以降、飛躍的に進展してきた。SiCのこれまでの研究開発やパワーデバイス実用化の道のり、さらなる活用に向けた今後の課題について、京都大学 工学研究科 教授 木本恒暢氏に聞いた。
耐圧600VはSi/SiC/GaNがそろう「激戦区市場」に
――今後、SiCの市場はどのように広がっていくと見ていますか。
木本氏 用途としてはやはりパワーデバイスが圧倒している。市場規模は1兆円という数字も見えてきていて、Siの牙城をこの規模で崩した例は過去にない。
自動車やデータセンター以外の用途としては、DC電流の遮断器としてInfineonらが開発を進めているSiC JFETなどがある。長年機械式だったヒューズやリレーが半導体に切り替わるのは大きな変化だ。電力系統を制御して停電の範囲を最小限にするといった使い方も考えられ、社会的インパクトも大きいだろう。また、パワーデバイスではないが、SiCの欠陥を利用したセンサーなども大学の基礎研究では始まっている。
窒化ガリウム(GaN)とは電圧ですみ分けていくだろう。耐圧100Vや300Vといった低電圧ではGaNが非常に強い。小型のモータや家庭用電化製品を含めて、GaNがSiに置き換わってどんどん伸びていくと見ている。また、縦型GaNパワーデバイスの実用化が進めば大電流/高電圧対応でSiCと競合する可能性があるとされる。非常に面白いが、SiCとGaNの理想特性はほぼ同じなので、それぞれの技術レベルが上がれば最終的にはコストと信頼性の勝負になるのではないか。
面白いのは耐圧600Vの市場だ。Siは低コストと信頼性、SiCは大電流対応、GaNは高速スイッチングと、それぞれが強みを発揮できるので、激戦区になるだろう。
――今後の研究にかける思いや目標についても教えてください。
木本氏 産業利用については企業に任せるが、酸化膜との接合界面の欠陥は20年たっても誰も根本的に解決できていないので、何とか新しい切り口で突破口を開きたい。SiCは実用化が進んだものの、まだ理解できていない現象が多くある面白い材料で、アカデミアとしてはやりがいがあるので、1つずつ解明していきたい。
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