不溶性の配位高分子材料を「水の力」でフィルム化、熱電材料実現:安定したn型熱電フィルムを作製
京都工芸繊維大学と大阪工業大学は産業技術総合研究所の協力を得て、水と有機溶媒の混合液を用い、ニッケル−エテンテトラチオレート系配位高分子「poly(NiETT)」を自然にほぐす手法を発見した。この手法を用い安定したn型熱電フィルムの作製に成功した。
試作したテラヘルツ光センサー、感度が従来の4倍に
京都工芸繊維大学材料科学系の野々口斐之准教授と湯村尚史教授、細川三郎教授、大阪工業大学工学部応用化学科の村田理尚准教授らは2025年9月、産業技術総合研究所センシング技術研究部門製造センシング研究グループの鈴木大地主任研究員らの協力を得て、水と有機溶媒の混合液を用い、ニッケル−エテンテトラチオレート系配位高分子「poly(NiETT)」を自然にほぐす手法を発見したと発表した。この手法を用い安定したn型熱電フィルムの作製に成功した。
次世代のエコ技術として、自動車や工場などから排出される大量の熱を電気に変える「熱電変換技術」が注目されている。特に、柔らかな有機材料を用いた熱電材料は、ウェアラブル機器などへの応用が期待されている。ただ、空気や湿気に弱く動作が不安定になるという課題もあった。
こうした中、「空気中でも安定に動作するn型熱電材料」として注目されているのがpoly(NiETT)である。ところが、poly(NiETT)粉末は不溶性のため、フィルム化したり樹脂と複合化して利用したりすることが難しかったという。
研究チームは今回、粉末状の材料を水と有機溶媒の混合液に入れると、自然にほぐれて液体中に分散することを発見した。この液体をフィルターで濾せば、薄くてしなやかなフィルムが得られるという。その厚みは約1000分の1mmである。しかも、空気中の水分を含ませたまま熱処理すれば、熱電変換特性が大幅に向上することも分かった。
さらに、このフィルムをカーボンナノチューブと組み合わせ、赤外線を電気に変換するセンサーを試作した。このセンサーは、テラヘルツ波と呼ばれる電磁波(赤外線)を検出する感度が、従来の4倍に向上することを確認した。
今回の研究成果は、発電デバイスへの応用だけでなく、6G/7Gといった次世代通信や医療・非破壊検査などに向けた高感度光センサー用途でも期待される。
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