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インタビュー

マーケティングを人任せにするな“異色のエンジニア” 竹内 健氏 ロングインタビュー(1)(1/2 ページ)

1990年代前半から東芝でフラッシュメモリの開発を担当し、主力事業に成長させる技術を確立した竹内氏。その後米国でMBAを取得した、日本では異色といえるエンジニアだ。帰国後も同事業に携わり、世界のライバルと渡り合うも、事業の絶頂期に退社し、大学に転じた。同氏の目に今、日本の電機/半導体はどう映るのか。

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“異色のエンジニア” 竹内 健氏 ロングインタビュー(2)「エンジニアは好きなことだけやってる? そんなのウソです」へ続く

 1990年代前半から東芝で当時「お荷物」事業だったフラッシュメモリの開発に携わり、多値セル技術を確立するなど、事業の成功に大きく貢献した竹内氏。同社在籍中に、技術だけの世界にいることを窮屈に感じ、「技術プラス経営の二刀流でいこう」と考え、米国に留学してMBAを取得した。日本のエンジニアとしては異色の人物である。帰国後も同事業で主導的な役割を果たし、技術とビジネスの両面で世界の競合と渡り合う。そして事業の絶頂期に東芝を退社し、大学に転じた。その同氏の目に今、窮状にある日本の電機/半導体企業はどう映っているのか。そこで働くエンジニアに向けた提言は。



商売の基本がポッカリ抜けている

EE Times Japan(EETJ) 深刻な業績不振に陥っているソニー、パナソニック、シャープ(参考記事その1参考記事その2)。経営破綻したエルピーダメモリ(参考記事その3)。低迷するシステムLSI事業の統合検討が報道されたルネサス エレクトロニクス、富士通セミコンダクター、パナソニック(参考記事その4参考記事その5)。今、国内の大手電機/半導体企業が窮状にあります。

竹内氏 私は、円高の影響といったマクロ経済については論じられません。各社の苦境の要因はさまざまで、1つではないでしょう。復活に向けた処方箋も多種多様だと思います。ですが、共通して言えることもあります。競合他社と差別化できるものを持っていなければならない。これは、あらためて言うまでもなく、現代のビジネスではごく当たり前のことです。しかし、実践できていないのが実情だと思います。

 なぜか。製品に差別化の要素を作り込むには、企業にマーケティングの機能が必要不可欠です。ところが、国内企業ではそれがうまく働いていないのです。あまりにもその機能が無さ過ぎです。半導体にしても、世の中の他のビジネス同様、商売であることに変わりはありません。何も企業は「産業のコメ」だからやってるわけじゃない。事業として見れば、お金をもうけることが目的のはずなんです。どういう顧客に、何を作って、どう売ったら、どれくらい儲かるか。商売の基本中の基本ですよね。ところが、日本企業はそれがポッカリと抜けている。

 例えば、フラッシュメモリは今、メモリ自体よりも、アプリケーションに応じてメモリを使いこなすためのコントローラの方がはるかに重要です。それこそが差別化の源泉であり、顧客である機器メーカーに対して提供できる付加価値になる。マーケティングを実践していれば、これは自然に見えてきます。顧客のアプリケーションは千差万別。その要求にどう応えるか。一番大事なのはメモリチップに加えて、それをどう動かすかである。それはどういう手段で実現できるのか……。こう考えていけば、コントローラに行きつきます。HDDでも、一番もうけているのは実はコントローラチップのベンダーなんです。

 翻ってエルピーダメモリはどうか。DRAMに絞り込んで事業を進めてきて、DRAM自体では競合他社と差別化を図りにくくなっていた。DRAMの世界は、実質的にIntelがインタフェースの標準仕様を定義しています。それでDRAM各社に全く同じものを作りなさいと言う。DRAMメーカーは、自分たちの製品の定義を他者に委ねてしまった格好です。完全にコモディティ化した市場で競争を強いられてしまう。そしてエルピーダは、マーケティングを自ら実践し、そこから脱却する商品を作り出すということはできなかった。破綻報道では「過剰品質が足かせ」といった表現もありましたが、それは本質ではないと思います。

 家電事業でも、マーケティングの機能不全はありますよ。例えば、3Dテレビってどうですか? 欲しいですか? 家に帰ってリラックスしたいときに、家族みんながあのグラスをかけて画面を眺める。そんな消費者がたくさんいると、メーカーは本当に考えたのでしょうか。

エンジニアが自ら手掛けるべき

EETJ 日本の大企業はマーケティング部門を抱えています。そこが機能していないということですか。

竹内氏 半導体事業について言うと、その日本企業のマーケティング担当者の実態は、欧米企業におけるFAE(Field Application Engineer)なんですよ。顧客側で不具合が起きたときに直したり、製品を顧客が使いやすいようにドライバソフトウェアを用意したり、ドキュメントやスペックシートを作ったりとか、そういった業務が中心です。先ほど述べた、商売の基本を担うマーケティングとは違う。私は東芝でマーケティングの部署を立ち上げようとした経験がありますが、社内では「営業と何が違うんだ」と、全く理解してもらえませんでした。

 DRAMでも液晶パネルでも、かつてのように製造できること自体に大きな付加価値があった時代は、極論すれば製造するだけでも事業として成り立った。でも、単に製造だけなら誰でもできるという時代になったら、それでは立ち行きません。どういう顧客に向けてどういうものを用意すればいいのか。そこは設計ツールではなくて、人間の手仕事の領域なんです。

 では企業の中で誰がそれをやるのか? 半導体をはじめ、エンジニアリング分野の企業なら、煎じ詰めればエンジニアが製品のマーケティングをやらなければならない。そう考えています。日本企業には、製品を作って売るという両面を全体的に統括できる、頭脳たる存在が必要です。エンジニアは、それを他人任せにすべきではない。

 私が東芝に在籍していた当時、現在セミコンダクター&ストレージ社の社長を務める小林清志氏がよく話していたのですが、ある技術を事業化する前に研究所で決めたことが、後々まで尾を引いて、その技術を製品として市場に供給し続ける間ずっと影響してしまう。ですから、たとえ事業部門に所属していない研究所勤務のエンジニアでも、「学会でみんなが発表しているから私もやりました」ではなく、これでビジネスをやっていくんだという視点で取り組む必要があります。事業部門だったら、なおさらです。ですが今の国内企業は、「他社がこうだから同じにしました」、「なぜ他社はそうしているの?」、「知りません」というパターンが多い。

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