マーケティングを人任せにするな:“異色のエンジニア” 竹内 健氏 ロングインタビュー(1)(2/2 ページ)
1990年代前半から東芝でフラッシュメモリの開発を担当し、主力事業に成長させる技術を確立した竹内氏。その後米国でMBAを取得した、日本では異色といえるエンジニアだ。帰国後も同事業に携わり、世界のライバルと渡り合うも、事業の絶頂期に退社し、大学に転じた。同氏の目に今、日本の電機/半導体はどう映るのか。
コツは、“理科系の目”で見ないこと
EETJ マーケティングを実務としてこなすには、純粋なサイエンスやエンジニアリングとは異なる能力も求められますね。
竹内氏 確かに、工場の原価のことも財務も理解しなければなりません。本当に広く浅くさまざまな知識が求められます。でも難しい理屈なんて、身につける必要はありません。経営的な視点で、物事を素直に考えればいいんです。
エンジニアの中には、細かい領域に閉じこもっていて、外を見ない人が少なくありません。その方が楽だという面があるのでしょう。でも外の世界というのも、実際に見てみればそんなに難しくないものですよ。ただし、コツがあります。“理科系の目”は捨てましょう。その目で見ていると、細かいところが気になってしまうんですよね。でも、何もかも1つ1つ完全に理解しようとしていたら、袋小路にはまってしまいます。
少し乱暴な言い方になりますが、顧客のニーズなんて結局、有象無象としていて、分かったような分からないようなものです。顧客が本当のことを言っていない可能性だってある。製品の原価計算にしてもかなりファジーな世界で、例えば本社機能のコストをどう上乗せするかでずいぶん違う。ですからあまり真面目にやりすぎるのは禁物です。広く多くを見ようと思ったら、細かいところはバッサバッサ切り捨てるくらいのつもりで臨むべきでしょう。細かいところは、間違ってもいい。
でも、そうして見えてくることって、案外正しいんですよ。こんなことありませんか? 会議で、技術をよく理解していない事業部長や社長がふと素朴な疑問を口にする。「なんでこうなってんだ?」。そうしたら、その場の誰も答えられない……。たくさんの担当者がそれぞれの領域だけを見つめて物事をばらばらに進めていて、最終的に全てを組み合わせて出来上がるものを誰一人として想像していない。それじゃ説明できないのも当然です。
もちろん、エンジニアの全員が全員、マーケティングに従事する必要はありません。専門領域をひたすら掘り下げる人がいてもいい。マーケティングの立場でプロジェクト全体を統括できるエンジニアは、10人あるいは50人に1人でいいと思います。でも、1つの製品に最低1人は、絶対に必要です。
→“異色のエンジニア” 竹内 健氏 ロングインタビュー(2)「エンジニアは好きなことだけやってる? そんなのウソです」へ続く
竹内 健(たけうち けん)氏
1993年東芝に入社。フラッシュメモリの研究開発に従事する。同社在籍中の2003年に米Stanford Universityで経営学修士号(MBA)を取得。帰国後もフラッシュメモリ事業に携わり、製品開発のプロジェクトマネジメントやマーケティングなどを主導した。
2006年に東京大学 大学院工学系研究科 電子工学専攻で工学博士号を取得。2007年に東芝を退社し、東京大学の准教授に着任。大学院工学系研究科 電気系工学専攻などを担当した。2012年1月に「世界で勝負する仕事術 最先端ITに挑むエンジニアの激走記」(幻冬舎)を出版。2012年4月に中央大学に移り、理工学部 電気電子情報通信工学科の教授に就任した。
1967年東京生まれ。Twitterアカウント:kentakeuchi2003
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