「SEMICON West 2016」、半導体露光技術の進化を振り返る(後編):福田昭のデバイス通信(83)(2/2 ページ)
今回はステッパー(縮小投影分割露光装置)の進化の歴史をたどる。1980〜1990年代半ばにかけて、g線ステッパーでは光学系の開口数(N.A.)が順調に向上し、i線ステッパーへと移行していく。その後、1996〜1997年になると、量産に使えるKrFレーザーステッパーが登場する。
X線リソグラフィの逆襲が0.5μmで始まる
ステッパーの開発によって延命を果たした光露光技術だったが、1985年ころには研究開発コミュニティーで解像限界が再び議論されるようになった。なぜかというと、ステッパーの光源である水銀灯の輝線は、半導体露光に使える最も短い波長が365nm,(i線)に限定されており、i線を光源とするステッパー(i線ステッパー)の「次となる露光技術」が見えていなかったからだ。
このころ、露光技術をけん引している半導体製品はDRAMだった。1985年当時は1.3μm〜1.0μm技術によって記憶容量が1MビットのDRAMチップを量産していた。
当時のDRAMトレンドは現在とはまったく違い、「3年ごとに記憶容量を4倍」にすることがDRAM業界の常識だった。同時に、半導体の加工寸法を3年ごとに0.7倍に縮小することが求められていた。DRAMトレンドを将来に伸ばすと、1988年ころには0.7μmの最小加工寸法で4Mビット DRAMの量産が始まり、1991年ころには0.5μmの最小加工寸法で16Mビット DRAMの量産を始める、というシナリオになる。
i線ステッパーの解像限界は1985年ころは、0.5μm〜0.6μmとされていた。従って0.5μm以下の最小加工寸法を安定に解像可能な、次の露光技術を半導体プロセス技術者は模索していた。
ここで再びクローズアップされたのが、X線リソグラフィである。想定された露光方式は等倍の近接露光(プロキシミティ露光)で、0.1μm前後の解像度が目標とされた。線源の候補はシンクロトロン放射光である。シンクロトロン放射光とは電子ビームの軌道を電磁石によって強制的に振動させると発生するX線のことで、非常に強力なX線を得られるというメリットがあった。
短波長化で光露光を延命
しかし光露光は再び、延命を果たす。手段は光源の短波長化だった。波長が248nmの光を出すレーザーが光源に選ばれた。具体的にはクリプトン(Kr)とフッ素(F)の化合物KrFの気体(ガス)をイオン化したガスレーザーである。i線の365nmからは、波長を短くするだけで原理的には解像度(最小加工寸法)を0.68倍に縮小できる。
KrFレーザーを光源とするリソグラフィ技術の開発では、レーザー出力の安定化、石英を硝材とする屈折レンズの開発、短波長に対応した高感度レジストの開発、位置合わせ精度の向上などが課題となった。ステッパーを構成する要素技術のほとんどに、かなりの変更を加えなければならなかった。それでもX線リソグラフィに比べれば、技術的な飛躍は少なかったといえる。露光装置はこれまでと同様に、縮小投影分割露光(ステッパー)であり、アーキテクチャそのものはg線ステッパーとそれほど変わらなかったからだ。
i線ステッパーの躍進とKrFステッパー登場の遅れ
実際には、g線ステッパーの次の世代であるi線ステッパーの改良が期待以上に進んだことで、光露光は大きく延命した。i線ステッパーが市場に本格的に投入され始めたのは1990年である。解像度は0.5μm、屈折レンズ光学系のN.A.は当初0.50〜0.52だった。このころのi線ステッパーは、16Mビット DRAMの量産で活躍した。
その後はレンズとレジストの改良によってN.A.が上昇するとともにk1ファクタが低下し、i線ステッパーの解像度は大きく向上した。1995年には、N.A.を0.63に高め、k1ファクタを0.60にまで下げることで0.35μmを解像するi線ステッパーが発売された。64Mビット DRAMの量産に採用されたステッパーである。
KrFレーザーを光源とするリソグラフィ技術が量産に使われるようになるのは、0.25μmの最小加工寸法からである。本格的に量産に使えるKrFレーザーステッパーが登場したのは1996〜1997年のことだ。
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