検索
連載

抹殺する人工知能 〜 生存競争と自然淘汰で、最適解にたどりつくOver the AI ―― AIの向こう側に (7)(13/13 ページ)

“人工知能技術”の1つに、生物の進化のプロセスを用いて最適解へと導く「遺伝的アルゴリズム(Genetic Algorithm:GA)」があります。25年ほど前に私が狂ったようにのめり込んだ技術なのですが、世界的にもファンがたくさんいるようです。そして、このGAこそが、私たちがイメージする“人工知能”に最も近いものではないかと思うのです。

Share
Tweet
LINE
Hatena
前のページへ |       

「ナンシー」に最も近いのがGA?

 それでは、今回のコラムの内容をまとめてみたいと思います。

【1】前回、前々回と合衆国大統領選挙の「選挙人制度」によって、投票比率と著しく乖離した選挙人の数となる(分散と感度)ことをシミュレーションで示してきましたが、今回、読者の方から、江端の200時間分のシミュレーションを0秒で完了させる、論理解の定式化と、正規分布への収束証明の成功についての連絡を頂き、急ぎ、この解法の解説を行いました。

 この定式化によって、AI技術などを使わなくとも、PCとエクセルだけで、選挙予測が十分可能だと説明致しました。

 しかし、それでもなお、事前に最高精度の正確無比な投票率が分からない限り、大統領選の当落予測が、極めて難しいままであることも、併せて説明致しました。

【2】前回、合衆国大統領選挙の「選挙人制度」が見直しされない理由について、読者の皆さんの意見をベースに検討しましたが、今回、読者の方からのご意見を受けて、選挙制度を改正するために必要となる憲法改正プロセスを調べてみました。

 この結果、合衆国の各州の利害と憲法改正の制度がデッドロックしており、合衆国大統領選挙の制度を変更することは、事実上不可能であることが分かりました。

【3】各国政府が実施し、そして今なお実施している「優生政策」について簡単にお話した後、「利己的遺伝子」に関する説明と、人工知能技術の一つである「遺伝的アルゴリズム(Genetic Algorithm:GA)」について、人間世界の出来事に即して、できるかぎりリアルかつ生々しく説明致しました。

【4】GAの具体的な事例として、「クリスマスデートスケジュール問題」を案出し、GAの仕組みを説明致しました。そして、GAという技術が、抜群にコストパフォーマンスに優れた、かつ、「独裁者を疑似体験できる」というエンターテインメント性もある人工知能技術であることを解説しました。


 以上です。


 以前にも申し上げましたが、私は、これまで多くの人工知能技術を「つまみ食い」してきましたが、今回ご説明したGAが、ナンシーに一番近いような気がするのです。

 いや、私は、ナンシーが「極悪非道な独裁者」だと言っているのではありません。

 かなりいい加減なモデルと、いい加減な評価関数を作って、プログラムをグルグル回しておくだけで、「そこそこの解」を導き出す、という―― そのラクチンさ ―― において、GAは、他の人工知能技術の中でも、抜きん出ているように感じます。

 人工知能技術は、優れた演算や複雑な推論よりも、むしろ、以下のようなことが期待されていると思うのです。

「(経営者が期待しているのは)屁みたいな安い投資で、ほとんど手間がかからず、新規の設備を作る必要もかからない、そういう『(人工知能)技術』なのだよ」

「加えて、サルでもできるくらい設備管理が簡単で、だまっていても金がガンガンたまって、もうかって笑いが止まらない。経営者が求めているのはそういう『(人工知能)技術』なのだ(よ)」

――「英語に愛されないエンジニア」のための新行動論(18):「誰も望んでいない“グローバル化”、それでもエンジニアが海外に送り込まれる理由とは?」より抜粋。「()」は江端が追記。

 このGAだって、そこそこ複雑で面倒くさい人工知能技術ではあるのですが、それでも、私が知る限りにおいて、GAは、上記の内容に最も近い人工知能技術の1つだと思うのです。

⇒「Over the AI ――AIの向こう側に」⇒連載バックナンバー

次回の掲載をメールで受け取る



Profile

江端智一(えばた ともいち)

 日本の大手総合電機メーカーの主任研究員。1991年に入社。「サンマとサバ」を2種類のセンサーだけで判別するという電子レンジの食品自動判別アルゴリズムの発明を皮切りに、エンジン制御からネットワーク監視、無線ネットワーク、屋内GPS、鉄道システムまで幅広い分野の研究開発に携わる。

 意外な視点から繰り出される特許発明には定評が高く、特許権に関して強いこだわりを持つ。特に熾烈(しれつ)を極めた海外特許庁との戦いにおいて、審査官を交代させるまで戦い抜いて特許査定を奪取した話は、今なお伝説として「本人」が語り継いでいる。共同研究のために赴任した米国での2年間の生活では、会話の1割の単語だけを拾って残りの9割を推測し、相手の言っている内容を理解しないで会話を強行するという希少な能力を獲得し、凱旋帰国。

 私生活においては、辛辣(しんらつ)な切り口で語られるエッセイをWebサイト「こぼれネット」で発表し続け、カルト的なファンから圧倒的な支持を得ている。また週末には、LANを敷設するために自宅の庭に穴を掘り、侵入検知センサーを設置し、24時間体制のホームセキュリティシステムを構築することを趣味としている。このシステムは現在も拡張を続けており、その完成形態は「本人」も知らない。



本連載の内容は、個人の意見および見解であり、所属する組織を代表したものではありません。


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

前のページへ |       
ページトップに戻る