Ge中のスピン伝導現象を解明、阪大など:Geスピントロニクス素子実現へ
大阪大学らの研究グループは、ゲルマニウム(Ge)中のスピン伝導現象を解明した。半導体素子のさらなる高速化と低消費電力化を可能にする研究成果として注目される。
半導体素子のさらなる高速化と低消費電力化を可能に
大阪大学大学院基礎工学研究科の浜屋宏平教授と東京都市大学総合研究所の澤野憲太郎教授の共同研究グループは2017年4月、ゲルマニウム(Ge)中のスピン伝導現象を解明したと発表した。Geは次世代の半導体チャネル材料として注目されており、半導体素子のさらなる高速化と低消費電力化を可能とする。
Geは、シリコン(Si)に比べて電子移動度が2倍、正孔の移動度は4倍と速く、次世代の半導体チャネル材料として注目されている。一部では「Ge-CMOS」と呼ばれる半導体コア技術の開発も始まっている。このGe中に電子の「スピン」自由度を電気的に注入して、不揮発性メモリ機能を付加する研究も進んでいるという。ところが、スピントロニクス素子を作製するためには技術的ハードルが高く、スピン伝導に関するメカニズムの実証研究などは十分に行われていないのが現状だ。
浜屋氏らの研究グループはこれまで、強磁性ホイスラー合金と呼ばれるスピントロニクス材料を、澤野氏らが作製したGe(111)伝導層上に作製し、純スピン流の生成や操作、検出などに成功してきた。
今回は、これらの技術をさらに高度化した。具体的にはゲルマニウム中にドーピングする不純物の量を精密に制御し、濃度が異なる複数の素子を用意した。これらの素子を用いて、純スピン流伝導を高感度に検出した。この結果、不純物濃度がわずかに異なるだけで、スピン寿命は1桁も変化することが分かった。
また、Ge中にリン(P)などの不純物がドーピングされると、Ge伝導層中にポテンシャルの変化を生成し、その影響でスピンが散乱されるという現象も、今回の実験で明らかとなった。
研究グループによれば、今回の成果は最近提案された理論と整合しており、Geスピントロニクス素子の実現に向けて大きな一歩になるとみている。なお、今回の研究成果は米国科学誌「Physical Review B(Rapid Communications)」(オンライン)で2017年4月14日に公開された。
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