弱いままの人工知能 〜 “強いAI”を生み出すには「死の恐怖」が必要だ:Over the AI ―― AIの向こう側に(13)(9/9 ページ)
AI(人工知能)には、「人間のアシストをする“弱いAI”」と「知性を持つ“強いAI”」があるという考え方があります。私は、現在の「AI」と呼ばれているものは、全て“弱いAI”と思っています。では、私たちは“強いAI”を生み出すことができるのでしょうか。それを考えるには、人間にとって、恐らくDNAレベルで刻まれているであろう普遍的な感覚、「死への恐怖」がヒントになりそうです。
パソコンにも『あの世』とか『来世』がある?
冒頭の、次女との会話の続きです。
次女:「"パソコンにも『あの世』とか『来世』がある"って、どういう意味?」
江端:「パソコンは電気信号のON/OFFで演算するし、人間の頭脳もニューロンという物体同士の電気信号のON/OFF(ニューロンの発火)で稼働している。パソコンも人間も、同じアナロジーで動いている有体物といえる」
次女:「それは極論だよ。パソコンは、人間のように創作もできないし、感情もないよ」
江端:「それは、コンピュータが、現時点で『創作』や『感情』を表現できるレベルにないだけかもしれない。そもそも、人間の『創作』や『感情』も、電気信号の組み合わせによる演算結果であることは、絶対的な事実だから、この点は議論の対象としないことにしてほしい」
次女:「分かった」
江端:「さて、同じく電気信号で動いている2つのモノの、一方のみに『あの世』とか『来世』があり、他方にはそれらがない、というのは、論理的一貫性を欠くと思うが、どうだろうか?」
次女:「つまり、パパは、『人間だけが特別扱いされる死後の世界は、おかしい』と言いたいわけだね」
江端:「ま、ぎりぎり、『知性のあるもの』を特別扱いするのはいいかな、くらいには思っているんだけどね。だから、コンピュータの知性を、『あの世』とか『来世』という観点から創造できないもんかなーと、常々考えていて……」
と、話を続けようとしていたところ、私たちの横で、黙って話を聞いていた嫁さんのドス黒いオーラが、ハンパでない状態になっているのに気が付きました。
私たちはそのオーラにおののきつつ、『続きは、試験の後な』と言いながら、そそくさと、それぞれ「試験勉強」と「執筆作業」に戻りました。
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Profile
江端智一(えばた ともいち)
日本の大手総合電機メーカーの主任研究員。1991年に入社。「サンマとサバ」を2種類のセンサーだけで判別するという電子レンジの食品自動判別アルゴリズムの発明を皮切りに、エンジン制御からネットワーク監視、無線ネットワーク、屋内GPS、鉄道システムまで幅広い分野の研究開発に携わる。
意外な視点から繰り出される特許発明には定評が高く、特許権に関して強いこだわりを持つ。特に熾烈(しれつ)を極めた海外特許庁との戦いにおいて、審査官を交代させるまで戦い抜いて特許査定を奪取した話は、今なお伝説として「本人」が語り継いでいる。共同研究のために赴任した米国での2年間の生活では、会話の1割の単語だけを拾って残りの9割を推測し、相手の言っている内容を理解しないで会話を強行するという希少な能力を獲得し、凱旋帰国。
私生活においては、辛辣(しんらつ)な切り口で語られるエッセイをWebサイト「こぼれネット」で発表し続け、カルト的なファンから圧倒的な支持を得ている。また週末には、LANを敷設するために自宅の庭に穴を掘り、侵入検知センサーを設置し、24時間体制のホームセキュリティシステムを構築することを趣味としている。このシステムは現在も拡張を続けており、その完成形態は「本人」も知らない。
本連載の内容は、個人の意見および見解であり、所属する組織を代表したものではありません。
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