光変調器の試作例(電界吸収(EA)変調器)とまとめ(後編):福田昭のデバイス通信(154) imecが語る最新のシリコンフォトニクス技術(14)(2/2 ページ)
電界吸収変調器(EA変調器)を試作して測定した、静特性と動特性の結果を解説する。さらに、EA変調器の他、マッハツェンダ変調器(MZ変調器)とリング変調器のベンチマーク結果をまとめる。そこから分かることは何だろうか。
電界吸収変調器(EA変調器)の動特性と変調信号波形
続いて動特性の測定結果である。挿入損失S21の周波数特性、反射損失S11の周波数特性、寄生抵抗と寄生容量をそれぞれ測定した。
挿入損失S21の周波数特性は0GHz〜50GHzの周波数範囲でバイアス電圧をマイナス1Vからマイナス3Vまで変化させて測定した。S21の3dB帯域幅は、50GHzを超えていた。
バイアス電圧がマイナス2Vのときに、pin接合の容量(Cj)は7.95fF、シリーズ抵抗(Rs)は320Ωである。RC時定数から換算した周波数帯域幅は63GHzであり、これも50GHzを超える。
試作した電界吸収変調器(EA変調器)は、NRZ符号の疑似ランダムパターンを56Gbpsの伝送速度で動作させたときに、バイアス電圧振幅(ピークツーピーク電圧)が1.5Vとかなり低くても、良好な信号波形(アイパターン)で信号を伝送できている。光波長は1550nmである。
電電界吸収変調器(EA変調器)を56Gbpsの伝送速度で動作させたときの信号波形(アイパターン)。32ビットの疑似ランダムNRZ(Non Return to Zero)符号をOOK(On-Off-Keying)変調したもの。出典:imec(クリックで拡大)
変調速度と挿入損失のトレードオフが存在
ここからはまとめに入ろう。「マッハツェンダ変調器(MZ変調器)」と「リング変調器」、「電界吸収変調器(EA変調器)」のベンチマーク結果である。全体を通して分かるのは、変調速度を高めようとすると、変調器の挿入損失が増加してしまうことだ。
設計目標は、送信器ペナルティ(TP)が8dB以下であることと、3dB帯域幅が35GHz以上であることの両立である。残念ながら、いくつかの試作例の中で、設計目標を辛うじて満足しているのは1例だけだ。リング変調器(Oバンド品、低Q値タイプ)を2Vの電圧振幅で駆動したときである。設計目標を満足するためには、変調器のさらなる改良が必要だと分かる。
電マッハツェンダ変調器(MZ変調器)(紫色のプロット)とリング変調器(Cバンド品(赤色のプロット)とOバンド品(青色のプロット))、電界吸収変調器(EA変調器)(黄緑色のプロット)のベンチマーク結果。横軸は3dB帯域幅、縦軸は送信器ペナルティ。左のグラフは電圧振幅(ピークツーピーク電圧)が1Vのとき、右のグラフはバイアス電圧振幅(ピークツーピーク電圧)が2Vのとき。出典:imec(クリックで拡大)
(次回に続く)
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