ルネサス、MPUの画像処理性能を10倍も向上:e-AIを進化させるDRP技術
ルネサス エレクトロニクスは、画像処理性能をこれまでより10倍も高めたマイクロプロセッサ(MPU)「RZ/A2M」を開発し、サンプル出荷を始めた。
スマート家電やサービスロボットなどにAI機能を搭載
ルネサス エレクトロニクスは2018年10月、画像処理性能をこれまでより10倍も高めたマイクロプロセッサ(MPU)「RZ/A2M」を開発し、サンプル出荷を始めると発表した。スマート家電やサービスロボット、小型産業機器などの用途で、AI機能の搭載を加速する。
同社は、組み込み機器へのAI(人工知能)導入を実現する「e-AIソリューション」の拡充に取り組んでいる。今回開発した「RZ/A2M」は、これを具現化するMPUの一つである。
RZ/A2Mは、独自のDRP(Dynamically Reconfigurable Processor)を内蔵した。DRPは、1クロックごとに演算回路の構成を動的に変更することができるハードウェアIPである。この技術は、放送用機器やデジタルカメラに向けたデバイスに適用しており、10年以上も前から量産してきた実績を持つ。
DRPを搭載することで、画像処理をリアルタイムに、少ない電力消費で実行できる。これを実証するため、画像のエッジ検出を行うアルゴリズム「Canny Edge Detection」の処理時間を測定した。RZ/A2MのCPUでソフトウェア処理する場合、1フレーム当たり142ミリ秒も要した。これをRZ/A2Mに搭載したDRPでハードウェア処理したところ、同じ処理が10ミリ秒で済んだという。このことから、従来に比べて10倍以上の速度で実行できることが分かった。
画像の前処理をDRPで実行し、適切なサイズに切り出したデータを基に、CPUで推論実行を行うことが可能となる。画像処理と推論実行を分担することで、カメラによるリアルタイムな画像認識、指紋や虹彩といった生体認証、バーコードスキャナーによる高速スキャニングなどを電池駆動で実行することができる。
RZ/A2Mは、4MバイトのRAMを内蔵しており、外付けDRAMを別途用意する必要はない。さらに、「MIPIカメラインタフェース」の内蔵や、2チャンネルの「イーサネット」をサポートした他、セキュリティ機能を強化する「暗号ハードウェアアクセラレーター」、画像のゆがみをハードウェアで補正する「ゆがみ補正エンジン(IMR)」などを搭載した。
ルネサスは、RZ/A2Mの機能や画像処理性能を評価するための開発ボードや各種レファレンスソフトウェア、DRP用画像処理ライブラリー(カメラ画像処理用や画像認識用)なども用意した。2019年第1四半期(1〜3月)より量産を始める予定だ。
さらに同社は、DRPの規模拡大や機能強化、微細な製造プロセスの採用などを予定している。これにより、AI処理性能を2019年後半には従来のCPUに比べて100倍以上、2021年には1000倍以上にそれぞれ高めていく計画である。将来は、エンドポイントの組み込み機器で、「推論実行」だけでなく「学習」も可能となる見通しだ。
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