Armが「Cortex-A76AE」を発表、Split-Lockを搭載:さらなる安全性の向上に向け(2/2 ページ)
Armは2018年9月26日(英国時間)に、自社のエコシステムパートナーに向けた新しいプログラム「Arm Safety Ready」と、Split-Lock機能を搭載したSoC(System on Chip)開発者向けのアップグレード版プロセッサコア「Cortex-A76AE」を発表した。いずれも、ADAS(先進運転支援システム)および自動運転車の時代に求められる高い安全基準に対応することが可能だ。
「Split-Lock」を搭載
同氏は、「Armは今まで、『Cortex-R』でASILに対応してきた。NXPとルネサスは、これらのCPUコアを使用している」と付け加えている。
Armは、「今回発表した『Cortex-A76AE』は、Split-Lock機能と、自動運転車用アプリケーションや高い安全性の実現に必要な処理性能を組み合わせた、業界初となる高性能アプリケーションプロセッサだ」と説明する。
またCortex-A76AEは、ワット当たりの性能向上も実現する。Mandyam氏は、「自動運転向けクラスの25万DMIPSの性能を備えたSoCの電力消費量は、一般的に約30Wだ。一方、7nmプロセスを適用した6コアのCortex-A76AEをベースとし、システムIP『CoreLink CMN-600AE』を導入したSoCは、同等性能を実現しながらも、消費電力はわずか15W程度である」と指摘する。
Demler氏は、「Cortex-A76は、Armの最高性能を実現するCPUであるため、車載用チップメーカーにとっては、性能向上を実現する上で、旧型の32ビット CPU『Cortex-R』よりも大きな後押しとなるだろう。なお、新しいSplit-Lock機能は、Cortex-Rコアではサポートされていない」と述べる。
Armは、「Split-Lock機能は業界初というわけではないが、自動運転機能など、高性能自動運転車アプリケーション向けのプロセッサとして独自開発したという点では、Armが初めてとなる」と述べる。
Armの新しいSplit-Lock機能の最大の特長は、これまでにない柔軟性を実現したことだ。
Armは、以下のように説明している。
- SoCのCPUクラスタは、クラスタ内の2つ(または4つ)の独立系CPUを、さまざまなタスクやアプリケーション向けに使用することが可能な、高性能向けのSplitモードに設定可能
- または、CPUがロックステップの中にある“Lockモード”に設定することで、クラスタ内でロックされた1ペア(または2ペア)のCPUの安全性インテグリティを高めることも可能
- CPUクラスタは、いずれかのモードを組み合わせて、ポストシリコンの生産でも設定することが可能
McGregor氏は、「今すぐにでも実行することは可能だが、ゼロから始めるには相当な量の設計専門知識が必要となる。Armは、パートナー企業向けに、これらの安全機能を備えたプラットフォームをもっと簡単に実現できるようにしている」と述べる。
また同氏は、「Armは、自社の技術を適用した設計を実証するためとして、最初のドキュメンテーションの一部を提供するという難しい作業を進めている。このためArmは、セーフティクリティカルなアプリケーション向けに、認証の削減と市場投入までの期間短縮を実現する、基本設計とドキュメンテーションを提供している」と述べる。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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