Intelの創業5年目(前編) 収入が前年の2.5倍に、初めての営業黒字を計上:福田昭のデバイス通信(173) Intelの「始まり」を振り返る(6)(2/2 ページ)
Intelの創業5年目となる1972年は、同社にとって記念すべき年となった。創業以来、初めて黒字になったのである。
DRAM「1103」の販売が絶好調
あらためて確認しておくと、当時のIntelは半導体メモリの大手ベンダーである。主力製品はMOSダイナミックRAM(DRAM)やMOSスタチックRAM(SRAM)、バイポーラRAMなどだ。
1972年は特に、DRAM「1103」の販売が絶好調だった。Intelは年次報告書の本文で、「単品では、世界で販売金額の最も大きな半導体製品になった」と高らかにうたいあげた。当時の主力ユーザーはメインフレーム・メーカー(メインフレーマー)である。世界(米国、欧州、日本)のメインフレーマー18社の中で、少なくとも14社がIntelの「1103」を採用したという。メインフレームの主記憶(メインメモリ)で磁気コアメモリからDRAMへの置き換えが、急速に進んでいることがうかがえる。
MOS生産ラインを3インチ対応に大口径化
DRAMを始めとするMOSメモリ製品の販売拡大が今後も見込まれることから、IntelはMOS製品の主力工場であるマウンテンビュー工場の生産能力を大幅に拡張することにした。切り札はウエハーの大口径化である。これまで同工場では、直径50mmのウエハー(2インチウエハー)で半導体チップを製造していた。1972年には生産ラインを、直径75mmのウエハー(3インチウエハー)を扱えるラインに切り替え始めた。生産ラインの切り替えは1973年に完了する予定である。2インチから3インチへの切り替えによって、シリコンダイ(同じ面積のダイ)のスループット(単位時間当たりの生産数量)は、2倍強に拡大する。
直径50mmのウエハー(2インチウエハー)(上)と直径75mmのウエハー(3インチウエハー)(下)の比較。筆者が2017年6月に米国カリフォルニア州サンタクララの「インテルミュージアム」で撮影したもの(クリックで拡大)
バイポーラメモリの販売も好調である。このため、本社所在地であるサンタクララの生産工場を全てバイポーラ向けに転換してバイポーラ製品の生産能力を増強することを決めた。すなわちマウンテンビューがMOS製造ライン、サンタクララがバイポーラ製造ラインという役割分担が確立した。
初めての海外工場をマレーシアに建設
さらに新しい工場を2カ所に建設中だ。1つは米国カリフォルニア州のリバモア工場、もう1つはマレーシアのペナン工場である。ペナン工場はパッケージの組み立て工程を担う。Intelにとってペナン工場は、初めての海外工場である。これらの工場は、次年度(1973年)に本格的な創業に入る。
生産能力の積極的な拡大を支えるため、1973年は約1000万米ドルの設備投資を計画する。1972年の設備投資額が210万米ドルだったので、4.8倍に増額することになる。そして1973年の設備投資は、新たな資金調達をせずに賄うとした。資金繰りがかなり良くなってきたことがうかがえる。
(後編に続く)
創業1年目 | 研究開発主体で売り上げは「ゼロ」 |
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創業2年目 | 初めての製品売り上げを計上するも赤字は拡大 |
創業3年目 | 売り上げが前年の11倍に急増して赤字が縮小 |
創業4年目 | (前編)半導体メモリのトップベンダーに成長 |
(後編)最終損益が黒字に転換 | |
創業5年目 | (前編)収入が前年の2.5倍に、初めての営業黒字を計上■ |
(後編)腕時計メーカーになったIntel | |
創業6年目 | クリーンルームに防塵衣がまだなかった頃 |
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