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外国人就労拡大で際立つ日本の「ブラック国家ぶり」世界を「数字」で回してみよう(56) 働き方改革(15)(10/10 ページ)

ここ最近、連日のように報じられている「外国人労働者の受け入れ拡大」。メディアで報じられている課題はともかく、この外国人就労拡大で際立っているのが、日本の「ブラック国家ぶり」です。このブラックぶりは、驚きを通り越して、むしろすがすがしいほどなのです。

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「わざわざ、国外から助けにきてもらっている」

後輩:「良くも悪くも『グローバル』という意味が、大きく変わってきた――というより、本当の姿が見えて来た、ということでしょうね」

江端:「はい?」

後輩:「昔、『グローバル』は、左(左翼)であれ右(右翼)であれ、一部のエリートのものだったのです。その人たちは、高い知能と社会的地位を持っていて、そして、思想的にどうであれ、論理的で理性的で ―― 要するに「頭が良かった」のですよ」

江端:「それで?」

後輩:「で、私たちは、基本的には『グローバル』というのは、「何か素晴らしい価値のあるもの」、か、あるいはその逆に、「とんでもなく間違ったもの」という、一部のエリート達の主張をむやみに信じていた訳です。何しろ、外国で仕事をしていたのはエリートだけでしたから」

江端:「確かに。『グローバル』というと、今でも、問答無用で「良い意味」で使われているな*)

*)関連記事:「“Japanese English”という発想

後輩:「ところが、インターネットを使うことで、皆、気がついてしまったのです ―― どの国の国民も、その大半が、日本人と同様に、人の話を聞かない、理解しない、そして自分の考え方を絶対変えようとしない人間であり、国家とは、そういう人間で構成されているのだということを」

江端:「それで?」

後輩:「結局のところ、『世界も日本と同じであった』ということです。『グローバル』とは、"すごい"ものでも"素晴らしい"でもなかった。『グローバル』は、その"下劣さ"、"愚かさ"、"低能さ"において万国共通である、という意味で再発見されたのですよ。例えばですね……(ここから、外国の現状の話続くのですが、あまりにも生々しくて、これを記載するとEE Times Japanの存在が危うくなるので、自己規制します)」

江端:「なるほど、分かった。で、今回のコラムの話と、どうつながるんだ?」

後輩:「つまりですね、江端さん。私たちの行動原理は『グローバルか否か』なんぞじゃなくて、『好きか嫌いか』ということです ―― グローバルであろうが、ドメスティックであろうが、そんなことはどうでもよくて、大切なのは、『国』ではなくて『人』なのです。その人の出身国なんぞ、知ったことではないんですよ」

江端:「……ああ、なるほど、分かってきた。つまり『外国人』の『労働者』という把握で、『外国人労働者』の施策をしても、ダメということだな」

後輩:「まさにその通りです。江端さんは、膨大な資料調査と計算によって、今回"1号""2号"の制度を、『外国人労働者に対する一方的な搾取戦略』と看破されていましたが、それは正しいと思います。それにしても、さすがは、我が国の官僚。エゲつ……もとい、とても優れた制度設計をしますね

江端:「……それにしても、私が調べた限り、この『搾取戦略』に気がついていたと思われる国会議員もマスコミもいなかったんだけど、これって、どういうことだと思う?」

後輩:「『勉強不足の政治家とマスコミを、官僚が"移民"という(弱い根拠の)論点に、見事にミスリーディングさせた』のかもしれません」

江端:「ふむ……」

後輩:「あるいは、『"搾取戦略"では、日本の利益を守る政策であることがはっきりしてしまい、政府与党を"支持する"ことになってしまう』という判断もあったかもしれません」

江端:「なるほど、『アメリカ・ファースト』ならぬ『ジャパン・ファースト(日本第一主義)』ね」

後輩:「江端さんの言うところの「搾取戦略」とは、ぶっちゃけ「ビジネスモデル」のことです。モデル的にはB(国家):B(企業):C(外国人)からなるB2B2Cモデルですね」

江端:「まあ、確かに。(1)国が外国人を集めて、(2)外国人を企業に分配して、(3)外国人に給与を払う、という意味では、B2B2Cだ」

後輩:「問題は、このビジネスモデルが、"B"側の視点からだけで作られていることです。このモデル、一見完璧に見えますが、"C"側を完全に無視している。『金(賃金)がエサ』という発想が、もうお話にならないくらいダメです。ちなみに、江端さんの『永住権がエサ』という仮説も間違っています」

江端:「え? 違うの?」

後輩:「江端さんが、これまでずっと言ってきたことじゃないですか。日本という国は、(1)経済成長率はアジア最低クラス、(2)絶望的な非婚率と少子化、(3)男女平等のランクは140カ国中110位、(4)「子育て」「家事」「介護」の当事者意識がない成人男性が腐るほど存在し、(5)政府に指導して貰わなければ自分で働き方すら決められず、(6)政府はブラック企業を叩き潰すことすらできない。そんな国に、一体、どこの誰が好んで来るというのですか?」

(1)「誰も知らない「生産性向上」の正体 〜“人間抜き”でも経済は成長?
(2)「合理的な行動が待機児童問題を招く? 現代社会を映す負のループ
(3)「女性の活用と、国家の緩やかな死
(4)「介護サービス市場を正しく理解するための“悪魔の計算”
(5)筆者のブログ
(6)「ブラック企業の作り方

江端:「まあ、そう言ってきたけど……」

後輩:「それでも、これから5年間くらいは、応募が殺到するかもしれませんが、帰国した(1号、2号は帰国が条件)外国人は、絶対に自国で触れ回りますよ『日本、最低だったよ』『日本はやめて他の国にしときな』と。

江端:「いや、1号、2号には、相当に手厚い保護規定が、あるにはあるんだ*)。ただし、その「保護」が単なるお題目となるか、心や魂のこもったものになるかは、分からないけど」

*)本当にうんざりする程、大量の書類がある(全部読んだ)

後輩:「私たちは、もう『金(賃金)』のパラダイムだけ動きません。それなら『他の国の人だって同じように考えるハズである』と思わないのか、私には不思議で仕方ないのです」

江端:「『金』ではないとすれば、それは、一体何だろうか?」

後輩:「精神的なものです。心をホッコリとさせて、優しさを感じられるものでしょう。そして、何度でも"1号試験"を繰り返し受験して、何度でも日本で働きたい ―― そう思わせるものでなければなりません」

江端:「どういう戦略が必要になるかな」

後輩:「『熱狂的なファン』を作り出す『日本国アイドル化戦略』です。外国人労働者を「日本オタク」にしてしまい、"1号""2号"のリピーターを大量に作り出すことです」

江端:「具体的には何する? 帰国する全ての外国人労働者に対する、現職総理大臣による握手会の実施か?」

後輩:「『総理』ねえ……うん、ダメですね。全然足りません。もっとこう、特別で非日常で、尊くて、日本人ですらめったには体験できないような、そして、帰国した人が、子々孫々に自慢し続けられるような何か"特別"でなければなりません。そうですねえ、ここは、一つ、陛下にお出まし頂き……」

江端:「"1号"の帰国者は、年間6万人(予測)だぞ。そんなご公務をお願いしたら、陛下が過労で倒れてしまうわ」

後輩:「とすれば、やっぱり、特別でなく、日常的で、毎日できる"普通"のことですね。その責務は、陛下でも総理でもなく、私たち国民にあり、私たちが、外国人労働者の方、一人一人に、どのように接し続けるか、ということになります」

江端:「つまり?」

後輩:「『わざわざ、国外から、私たちを助けにきて頂いている』という謙虚な気持ち ―― 災害で被災地の人が、復旧支援にやってきたボランティアの人に対して抱くような感謝の念 ―― が、普段の生活の中で思わず吐露してしまうような、そんな姿勢なくして、この施策の成功はありえません。

 少なくとも、『日本で、働かせてやっているんだ』という傲慢な態度が1ミリでも表われるようなら、この施策、必ず失敗します


⇒「世界を「数字」で回してみよう」連載バックナンバー一覧



Profile

江端智一(えばた ともいち)

 日本の大手総合電機メーカーの主任研究員。1991年に入社。「サンマとサバ」を2種類のセンサーだけで判別するという電子レンジの食品自動判別アルゴリズムの発明を皮切りに、エンジン制御からネットワーク監視、無線ネットワーク、屋内GPS、鉄道システムまで幅広い分野の研究開発に携わる。

 意外な視点から繰り出される特許発明には定評が高く、特許権に関して強いこだわりを持つ。特に熾烈(しれつ)を極めた海外特許庁との戦いにおいて、審査官を交代させるまで戦い抜いて特許査定を奪取した話は、今なお伝説として「本人」が語り継いでいる。共同研究のために赴任した米国での2年間の生活では、会話の1割の単語だけを拾って残りの9割を推測し、相手の言っている内容を理解しないで会話を強行するという希少な能力を獲得し、凱旋帰国。

 私生活においては、辛辣(しんらつ)な切り口で語られるエッセイをWebサイト「こぼれネット」で発表し続け、カルト的なファンから圧倒的な支持を得ている。また週末には、LANを敷設するために自宅の庭に穴を掘り、侵入検知センサーを設置し、24時間体制のホームセキュリティシステムを構築することを趣味としている。このシステムは現在も拡張を続けており、その完成形態は「本人」も知らない。



本連載の内容は、個人の意見および見解であり、所属する組織を代表したものではありません。


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