東芝、高感度のフィルム型有機光センサーを開発:放射線のパルス検出に初めて成功
東芝は、有機半導体を用いた高感度のフィルム型光センサーを開発した。開発した光センサーと放射線によって発光するシンチレーターを組み合わせ、放射線のパルス検出に初めて成功した。
工業用や医療用などへも用途を拡大
東芝は2019年9月、有機半導体を用いた高感度のフィルム型光センサーを開発したと発表。開発した光センサーと放射線によって発光するシンチレーターを組み合わせ、放射線のパルス検出に初めて成功した。
光センサーは、IoT(モノのインターネット)機器やウェアラブル端末などへの搭載が期待されている。特に、有機半導体薄膜を用いた光センサーは、シリコンを利用した一般的な光センサーに比べ、薄型で大きな面積に対応できるのが特長だ。ただ、光の検知特性が低いため、有機光センサーを用いて放射線のパルスを検出することは、これまで難しかったという。
そこで東芝は、感度の高いフィルム型有機光センサーを開発した。これにより、シンチレーターからの微弱な光を検知することが可能となった。開発したフィルム型光センサーは、「透明電極」や「バッファ層」「有機半導体層」および、「金属電極」を積層した構造である。この素子を、有機物を主成分とするフィルム状の材料で封止した。
放射線を検出するため、可視光に変換するシンチレーターを取り付けた。シンチレーターで変換された光は、透明電極やバッファ層を通り抜け、有機半導体層で吸収され電荷を生成する。この電荷を両側の電極で電流として検出する。
微弱な光を高い精度で検出するためには、生成された電荷をロスなく取り出す技術に加え、測定時の電流ノイズを低減することが重要だという。今回は、電荷の取り出し効率を高めるため、有機半導体層の材料構成を最適化し、成膜プロセスを改善した。これにより光検出効率を80%以上に高めた。ノイズ低減に向けては、有機半導体層の膜厚を5μmとするなど、素子構造を工夫した。開発したフィルム型光センサー全体の厚みは100μmである。
東芝は、開発したフィルム型有機光センサーを用いて、ベータ線を放出する放射性物質「ストロンチウム90」を検出する試験を行い、ベータ線のパルスを検出できることを確認した。同社によれば、有機半導体層の材料や構造の調整、適切なシンチレーターを組み合わせると、ベータ線以外のガンマ線やX線なども検出できるという。
東芝は今後、フィルム型有機光センサーの感度をさらに高めていく。IoT機器やウェアラブル端末に加え、工業用や医療用、インフラ計測、安全管理などへの用途拡大を目指す。
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