半導体ウエハー内部の転位とひずみの分布を可視化:結晶欠陥の検出率は95%以上
名古屋大学未来材料・システム研究所の原田俊太准教授は2022年6月、Mipoxと共同で半導体ウエハー内部の結晶欠陥(転位)とひずみの分布を可視化することに成功した。Mipoxはこれらの技術を自社のSiC結晶転位高感度可視化装置「XS-1 Sirius」に実装し、この効果を確認した。
Mipox製SiC結晶転位高感度可視化装置に開発技術を実装
名古屋大学未来材料・システム研究所の原田俊太准教授は2022年6月、Mipoxと共同で半導体ウエハー内部の結晶欠陥(転位)とひずみの分布を可視化することに成功したと発表した。Mipoxはこれらの技術を自社のSiC結晶転位高感度可視化装置「XS-1 Sirius」に実装し、この効果を確認した。
SiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)などのパワー半導体デバイスは、次世代自動車や鉄道車両、送配電機器などでの採用が増加している。しかし、半導体ウエハー内部には多くの転移が含まれていることがあり、欠陥検査を高い精度で効率よく行う必要がある。ところが、従来技術では、転位部分を機械的に抽出することができず、観察された像の定量的な評価が極めて難しかったという。
そこで今回、2つの技術を開発した。その1つは、グレースケールで観察される像の中から転位の位置を特定しカウントするシステムの構築である。転位の可視化には、偏光に伴う結晶特有の複屈折特性(レタデーション)を応用した偏光観察の技術と、Mipox独自のリアルタイム位相演算処理を用いた。独自の画像処理フィルターを開発し、貫通転位が形成するコントラストを、選択的に抽出することに成功した。
もう1つは、転位カウントシステムのカウント結果を基に、ウエハー全体における転位の数密度やひずみの分布を分かりやすく表示するヒートマップ表示機能の開発である。これによって、ウエハー中の転位密度や表示領域内におけるひずみの強弱を、カラースケールで可視化し、定量化することが可能となった。
Mipoxは、開発した2つの成果をXS-1 Siriusに実装した。この結果、ウエハーに含まれる転位の数を95%以上の検出率で測定することに成功した。しかも、撮像とのマルチタスク処理によって、検査時間を短縮した。ウエハーを全面検査する実験では、3インチウエハーで約4分、4インチで約7分、6インチで約15分という処理速度を確認した。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 生体呼気で個人認証、東京大らが原理実証に成功
東京大学と九州大学、名古屋大学および、パナソニック インダストリーの研究グループは、「生体呼気」で個人認証を行う原理実証に成功した。20人を対象に行った実験では、97%以上の精度で個人を識別できたという。【訂正あり】 - ポリマー半導体の電荷移動度が20倍以上に向上
広島大学や京都大学らによる共同研究チームは、ポリマー半導体の化学構造をわずかに組み替えるだけで、電荷移動度をこれまでより20倍以上も向上させることに成功した。 - 新合成法でペロブスカイト型酸水素化物半導体開発
九州大学と東京工業大学、名古屋大学の研究グループは、長波長の可視光に応答するスズ含有ペロブスカイト型酸水素化物半導体を合成することに成功した。安価な鉛フリー光吸収材料を合成するための新たな手法として期待される。 - 名古屋大、磁場中で体積変化する反強磁性体を発見
名古屋大学の研究グループは、磁場を加えると体積が大きく膨張する反強磁性体を発見した。チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)に替わるアクチュエーター材料として期待される。 - ナノソルダー接合材料、低温接合で耐熱200℃を両立
パナソニック ホールディングスは、東北大学や大阪教育大学、秋田大学、芝浦工業大学と共同で、低温かつ短時間での接合と、耐熱200℃を両立させた「ナノソルダー接合材料」を開発した。 - 東北大学、カーボンリサイクル技術の事業化を検証
東北大学は、産業廃棄物(シリコンスラッジ)とCO2(二酸化炭素)を反応させて、SiC(炭化ケイ素)を合成する技術を開発し、カーボンリサイクル技術として事業化に向けた検証を行っていく。