バイオセンサの信号変換技術(後編):福田昭のデバイス通信(391) 2022年度版実装技術ロードマップ(15)(2/2 ページ)
前編に続き、バイオセンサの信号検出原理を解説する。具体的には、電気化学インピーダンス測定、イオン感応型FET、グラフェンFET、表面増強ラマン散乱などを取り上げる。
耐久性と高感度を両立させたグラフェンFET
次は「グラフェンFET(G-FET:Graphene Field Effect Transistor)」を説明しよう。グラフェン(Graphene)は炭素原子が正六角形を構成しながら平面状に連なった2次元材料であり、厚みが単原子層しかない。厚みに対する表面積の比率が極めて高く、周囲の環境変化に対して高い感度で性質が変化する。
グラフェンFETはグラフェン膜をFETのチャンネルとすることで、高感度のセンサを実現しようとする。シリコンのISFETとの本質的な違いは、グラフェンは炭素化合物であり酸化しにくい点にある。このため、グラフェンFETはチャンネルであるグラフェンを検体の水溶液と直に接触させて測定可能であり、この点からも高い感度を期待できる。
ゲート電極はISFETと同様に外部の参照電極となる。あるいは基板裏面の電極(バックゲート電極)も使われる。このような構造でゲート電極に電圧を印加するとドレイン電流が増加する。ゲート電圧は正負のどちらでも構わない。どちらの方向でもゲート電圧の増加とともにドレイン電流が増加する。
ここで水溶液のpH値(水素イオン指数)を変化させると、グラフェンチャンネル表面の電荷によって電圧電流特性がシフトする。この特性変化から、pH値を推測する。
「グラフェンFET(G-FET:Graphene Field Effect Transistor)」の構造(左)と測定原理(右)[クリックで拡大] 出所:JEITA Jisso技術ロードマップ専門委員会(2022年7月7日に開催された完成報告会のスライド)
このほかの原理は先述のように割愛した。本稿では「ラテラルフローイムノアッセイ(LIFA:Lateral Flow Immunoassays)」と「蛍光共鳴エネルギー移動(FERT:Fluorescence Resonance Energy Transfer)」の原理図を掲載するにとどめる。どうかご容赦されたい。
「ラテラルフローイムノアッセイ(LIFA:Lateral Flow Immunoassays)」の原理図[クリックで拡大] 出所:JEITA Jisso技術ロードマップ専門委員会(2022年7月7日に開催された完成報告会のスライド)
「蛍光共鳴エネルギー移動(FERT:Fluorescence Resonance Energy Transfer)」の原理図[クリックで拡大] 出所:JEITA Jisso技術ロードマップ専門委員会(2022年7月7日に開催された完成報告会のスライド)
⇒「福田昭のデバイス通信」連載バックナンバー一覧
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- バイオセンサの信号変換技術(前編)
前回に続き、第2項(2.3.2)「メディカル」の最後の項目、「バイオセンサ」を取り上げる。バイオセンサの主な信号検出原理を説明する。 - 嗅覚と味覚の電子化を目指すバイオセンサ
今回は、第2項(2.3.2)「メディカル」の最後の項目、「バイオセンサ」を取り上げる。 - 実験室の機能を数cmサイズに集積したマイクロ流体デバイス
JEITAの「2022年度版 実装ロードマップ」を紹介するシリーズ。今回は、第2章「注目される市場と電子機器群」から「マイクロ流体デバイス」の概要を簡単にご紹介する。 - 国産初の手術支援ロボット「hinotori」が医療の進化を促す
今回は、「手術支援ロボット」(2.3.2.1)から「(2)手術支援ロボットの動向」部分の概要を取り上げる。国産初の手術支援ロボット「hinotori」について説明する。 - IOWNで、120kmの遠隔でも”普段通り”の手術を実現
NTTは2022年11月15日、遠隔手術の実現に向け、国産の手術支援ロボット「hinotori サージカルロボットシステム」(以下、hinotori)を提供するメディカロイドと共同実証を開始したと発表した。NTTの「IOWN オールフォトニクス・ネットワーク」(以下、APN)と接続し、低遅延でゆらぎの少ない通信を活用することで、医師不足が深刻化する地方でも専門医の手術を受けられる環境作りを目指す。実証環境は2022年11月16〜18日に開催される「NTT R&D フォーラム ―Road to IOWN 2022」で展示された。 - AMD、サーバ向け高性能プロセッサ「第4世代EPYC」の第1弾を発表
AMDは2022年11月10日(米国時間)に米国カリフォルニア州サンフランシスコで新製品発表会「together we advance_data centers」を開催し、サーバ向けプロセッサの新製品「EPYC 9004シリーズ」の販売を開始した。