名古屋大学、高伝導の高分子電解質膜を開発:次世代燃料電池や水電解装置向け
名古屋大学は、従来に比べ酸基の密度が5倍以上で、伝導率は6倍以上という「高分子電解質膜」を開発した。次世代の固体高分子形燃料電池や水電解装置に向ける。
従来型に比べ、酸基密度は5倍以上、伝導率は6倍以上を実現
名古屋大学大学院工学研究科の野呂篤史講師(兼未来社会創造機構マテリアルイノベーション研究所及び脱炭素社会創造センター)らによる研究グループは2023年4月、従来に比べ酸基の密度が5倍以上で、伝導率は6倍以上という「高分子電解質膜」を開発した。次世代の固体高分子形燃料電池や水電解装置に向ける。
高分子電解質膜は、固体高分子形燃料電池などに用いられ、プラス電荷を帯びた水素イオン(プロトン)を輸送する機能がある。燃料電池は電解質膜で水素と酸素を隔てている。水素により生じたプロトンが高分子電解質膜中を移動し、反対側の酸素と出会って水を生成することで、電気エネルギーを発生させる仕組みとなっている。
プロトンを輸送する能力が高い電解質膜を用いれば、燃料電池からより多くの電気を取り出すことが可能となる。また、電解質膜の伝導率は、電解質膜中の酸基密度と強い相関関係があり、イオン交換容量(IEC)として表すことができるという。
例えば、市販されている電解質膜としては、ナフィオンなどの「パーフルオロスルホンポリマー膜」や、セレミオンなどの「スルホン化ポリスチレン膜」があり、一般的な使用条件(80℃、90%RH)下における伝導率はそれぞれ0.15S/cm、0.091S/cmで、電解質膜のIEC値は約0.9meq/gとなっている。
研究グループは今回、IECが1.0meq/g以上という高分子電解質膜を得るため、保護基でキャップをされた酸基を有するモノマーを重合させてポリマーを合成した。保護基はキャップをされていない酸基とした。これにより、IEC値が5.0meq/gという電解質膜を合成することに成功した。酸基密度は従来品の5倍以上である。また、伝導率は0.93S/cmとなり、従来品に比べ6倍以上も高い値となった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- カーボンナノチューブの毒性の原因を解明
立命館大学は、名古屋大学、東北大学と共同で、カーボンナノチューブ(CNT)を認識するヒト免疫受容体を発見した。これにより、CNTによる健康被害の予防法や治療法の開発が進む可能性がある。 - 1滴の溶液と1分の時間でナノシート膜を自動製膜
名古屋大学は、酸化物やグラフェンといった二次元物質(ナノシート)を用い、薄膜を高速に作製する方法を開発した。この技術を用いると、1滴の溶液と1分程度の時間で、さまざまな形状、サイズの基材上にナノシート膜の製膜が可能だという。 - 0.9nm厚のアモルファスシリカナノシートを合成
名古屋大学の研究グループは、厚みが0.9nmという「アモルファスシリカナノシート」の合成に成功した。次世代の電子デバイスやエネルギー分野への応用に期待する。 - 低温水溶液プロセスで、BaTiO3ナノシートを合成
名古屋大学は、60℃という低温の水溶液プロセスで、チタン酸バリウムナノシートの合成に成功した。単位格子3個分の厚みに相当する1.8nmまで薄くしても、強誘電特性は維持されていることを確認した。 - 名古屋大学ら、熱膨張抑制剤の微粒子化に成功
名古屋大学と名古屋大学発ベンチャーのミサリオは、温めると縮む熱膨張抑制剤「ピロリン酸亜鉛マグネシウム」の微粒子化に成功した。 - 東京大ら、新たなアクチュエーター材料を発見
東京大学と名古屋大学の研究グループは、幅広い温度範囲において磁場を加えると体積が大きく膨張する新材料を発見した。有害な鉛を含まないため、新たなアクチュエーター材料としての応用が注目される。