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複数のガス分子を選択的に検出する「におい」センサー福田昭のデバイス通信(400) 2022年度版実装技術ロードマップ(24)(2/2 ページ)

前回に続き、「におい」を定量的に評価する手法を取り上げる。今回は「成分濃度表示法(機器分析法)」を紹介する。

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市販品の大半は半導体の抵抗変化を検出に利用

 「におい」センサーの原理には、「半導体方式」「水晶振動子方式」「グラフェン方式」「ナノメカニカル方式」などがある。これらの中で半導体方式は研究開発の歴史が長い。「においセンサー」の名称で市販されている機器は、半導体方式を採用していることが多い。

 半導体方式は、「におい」の成分となる化学物質(におい分子)が酸化物半導体あるいは有機半導体の表面に吸着すると半導体の電気抵抗が変化する現象を利用して「におい」をセンシングする。ただし吸着するにおい分子の選択性はあまり高くない。言い換えると、目的のにおいとは無関係な化学物質のガス分子も吸着してしまうことが少なくない。

 また、におい分子の吸脱着を促すために半導体を300℃〜500℃に加熱する。この加熱によってにおい分子が分解したり、反応したりする。ヒトが室温で感じる「におい」との対応関係は、あまり良いとはいえない。

 水晶振動子方式は、本シリーズの第14回で紹介した「水晶振動子マイクロバランス(QCM:Quartz Crystal Microbalance)」法(参照)と基本的には同じ原理を使う。水晶振動子の振動電極に吸着した化学物質の質量に応じて振動周波数が低下する。この周波数変化を信号として検出する。

 QCM法の技術をにおいセンサーに応用するには、特定のにおい分子を吸着する感応膜(脂質膜)を電極表面にあらかじめ堆積しておく。適切な脂質膜を堆積することで、選択性の高い、嗅覚に近いセンサーを実現する可能性がある。

グラフェンFETを「におい」センサーに活用

 最近ではこのほか、平面状の2次元導電材料であるグラフェンを使った電界トランジスタ(FET)方式の「におい」センサーが注目されている。グラフェンFET(G-FET:Graphene Field Effect Transistor)そのものは、本シリーズの第15回で既に紹介した。グラフェンをFETのチャンネルあるいはゲート電極として利用することで、高感度のセンサーを実現できる。

 グラフェン電極そのものを感応膜とするガスセンサーは、2016年12月に富士通研究所が開発した(参考記事:「グラフェンを用いた新原理ガスセンサー 「世界初」)。アンモニア(NH3)に対する感度は数十ppb、二酸化窒素(NO2)に対する感度は1ppbと非常に高い。またアセトアルデヒド、二酸化硫黄、硫化水素には反応しない。ある程度の選択性を備える。

富士通研究所が開発したグラフェンガスセンサーの構造(左)と試作品(グラフェンFET)の電子顕微鏡観察像(右)
富士通研究所が開発したグラフェンガスセンサーの構造(左)と試作品(グラフェンFET)の電子顕微鏡観察像(右)[クリックで拡大] 出所:同社が2016年12月に発表したリリースから

 東京工業大学(東工大)は2023年2月に、グラフェンFETのグラフェンチャンネル表面にペプチド(アミノ酸が結合した高分子)の自己組織化膜を形成し、特定のにおい分子を選択的にセンシングする「におい」センサーを開発した。目的のにおい分子だけを捕捉する複数のペプチドによる自己組織化膜をグラフェン表面に形成し、におい分子の吸脱着によって電気伝導度が変化することを確かめた。


東工大が開発したグラフェン「におい」センサーの原理図(注:この図面はロードマップ本体には掲載されていない)。左上がペプチドのアミノ酸配列。グラフェン表面で足場となるペプチド(足場ペプチド)と、目的のにおい分子を捕捉するペプチド(プローブペプチド)がある。右上は対象となるにおい分子。下は自己組織化によってペプチドをグラフェン表面に形成する工程(左から右へ進む)[クリックで拡大] 出所:東工大が2023年2月に発表したリリースから

⇒(次回に続く)

⇒「福田昭のデバイス通信」連載バックナンバー一覧

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