東芝が語る、車載半導体の最新技術動向:パワー半導体は低耐圧MOSFETとSiC中心(3/3 ページ)
東芝は2023年5月、車載半導体への取り組みに関する説明会を実施した。説明会では、担当者がSiCを含むパワー半導体やモーター制御ICなど、同社の注力領域に関する技術動向を説明した。
車載SiC MOSFETの開発動向
SiCデバイスについては、まずSiCによって電力損失低減/小型化を実現(対IGBTモジュール)した3300V耐圧の鉄道向けSiC MOSFETモジュールの生産を開始していて、2022年8月からは同技術をベースに産業用途向けの650Vおよび1200V SiC MOSFETの量産を開始している。今後、同技術をさらに車載分野に展開していく方針で、2024年以降、トレンチ構造導入によって高性能で電力損失の低減を実現する高品質/高信頼デバイスをオンボードチャージャーに展開、その後インバーター向けも提供していく予定だ。
同社は現在第3世代のSiC MOSFETを量産している。同製品は前世代品と比較しスイッチング特性を示す性能指数Ron*Qgdを80%削減しているほか、SBDをPNダイオードと並列に配置するbuilt-in SBD構造を採用。ボディーダイオードに通電時、SBD電流に主に流れるため、SiC結晶を劣化させるダイオード電流を抑制し、デバイスの信頼性を向上するとしている。
マイコンとモーター制御ドライバーを一体化
モーター制御ICでは、高まる小型化、高機能化の要求に向け、モーター制御ドライバー(MCD)とマイコンを一体化した車載モーター制御用LSI「SmartMCD」の開発を進めている。同製品は40V耐圧程度のパワーデバイス向けで、ターゲットアプリケーションはポンプやファンなどを想定。2023年末〜2024年のリリースを予定している。
SmartMCDでは、マイコンおよびその周辺部(ゲートドライバー、電源、センサレス制御)を1チップに統合することで、システムの小型化や部品数削減を実現する。また、マイコンによる制御やプログラマブルモータードライバーなどの組み合わせによって、さまざまなアプリケーションに対して効率的なモーター制御が可能となるという。今後クルマのE/Eアーキテクチャがゾーン型へと移行していくことが見込まれているが、「各部位での制御が必要になる中、ある程度の制御が可能になるSmartMCDが非常に有効になるのではないか」(来島氏)という。
さらに、一部製品についてはベクトル制御エンジンによって、CPU負荷がさらに低減され、低消費電力化にも貢献するとしている。来島氏は、「SmartMCDは、制御の一部は回路ベースで、一部はCPUから信号を受ける形でモーター制御の効率化ができる。CPUとハードウェアの間に位置する製品だ」と述べている。同社は、オフロードエンジンにて、独自アルゴリズムに基づくベクトル制御モデルを提供予定。さらに、ソースコード自動生成ツールなども提供し、ソフトウェア開発の負荷も低減するという。
同社はこのほか、モデルベース開発向けに車載パワー半導体の動作検証時間を短縮する、熱/ノイズシミュレーション技術「Accu-ROM」も提供している。同技術を用いると、従来技術では約33時間かかっていた車載半導体の熱やEMIノイズのシミュレーションを約3時間30分で完了できるという。Accu-ROMはAnsysのシミュレーションツール「TwinBuilder」に組み込まれていて、東芝の製品を検証可能になっている。
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