EVの航続距離延長に効く、ADIの最新バッテリー監視IC:最大16個の直列電池を測定可能
アナログ・デバイセズは「人とくるまのテクノロジー展 2023 横浜」で、最新の車載バッテリー監視ICを展示した。セル電圧の測定誤差が低いので、バッテリー残量をより正確に把握できるようになる。
アナログ・デバイセズは、「人とくるまのテクノロジー展 2023 横浜」(2023年5月24〜26日、パシフィコ横浜)で、BMS(バッテリーマネジメントシステム)向けに、同社の第6世代車載バッテリー監視IC「ADBMS6830」のデモを披露した。
バッテリーセルが100〜200個搭載されている車載バッテリーでは、安全性を維持するために、バッテリーの充放電状態を精密に計測することが重要になる。ADBMS6830は、最大16個直列に接続されたバッテリーセルの電圧と温度を測定、モニタリングする。電圧の測定誤差は、3.3Vのセルで±1.8mV(−40〜125℃)と低く抑えられている。電圧を高精度に測定することにより、バッテリー残量をより正確に把握できるので、EV(電気自動車)の航続距離の延長につながる。
アナログ・デバイセズによれば、第6世代となるADBMS6830ではアーキテクチャを刷新し、2個のA-Dコンバーターを搭載した。2個のA-Dコンバーターで同時に測定し、測定結果が異なる場合は通知する。これによって冗長性を実現している。
この新しいアーキテクチャによって、ノイズ耐性も向上する。内蔵しているA-Dコンバーターのサンプリングは4.096MHzなので、DC〜2MHzまでをデジタル変換したあと、後段で低周波ノイズをデジタル的に取り除くことができる。これにより外部のアナログフィルターを減らすことが可能だ。
バッテリーパックをモニタリングしている様子。上のグラフは電流(青)と電圧(オレンジ)を示している。下のグラフは、ノイズをのせた入力電圧の波形(青)と、フィルタリング後の波形(オレンジ)を示す[クリックで拡大]
アナログ・デバイセズは、バッテリーセル/モジュールの電圧や電流、温度をECU(電子制御ユニット)のプロセッサに無線で送信できるワイヤレスBMS向けの製品群も用意している。「ワイヤハーネスを軽量化するなどの目的で、ワイヤレスBMSを採用する動きも出てきている。ワイヤレスBMSのもう一つの利点は、(無線通信を行うためのICが搭載されているので)バッテリーパックが自動車に搭載される前から、バッテリーの状態のデータを取得してクラウドに送信できるところだ」(アナログ・デバイセズ)。資源枯渇への懸念などで、リチウムイオン電池のリユースやリサイクルに向けた取り組みが重要視されるようになる中、バッテリーを使用する前のステータスも分かるワイヤレスBMSへの注目も高まることが予想される。
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