Fe/FeRh界面で強い垂直磁気異方性の発現を発見:磁気相転移によって制御可能
名古屋大学は、鉄ロジウム(FeRh)と強磁性体の界面で、磁気交換結合に基づく強い垂直磁気異方性が発現することを発見した。室温付近におけるFeRhの反強磁性−強磁性相転移によって、垂直磁気異方性を制御できることも実証した。
界面近傍における磁気交換結合という新たな仕組みを活用
名古屋大学は2023年6月、鉄ロジウム(FeRh)と強磁性体の界面で、磁気交換結合に基づく強い垂直磁気異方性が発現することを発見したと発表した。また、室温付近におけるFeRhの反強磁性−強磁性相転移によって、垂直磁気異方性を制御できることも実証した。
スピントロニクス素子の集積化に向けては、垂直磁化を実現しつつ、周辺素子に対する漏れ磁場の影響を少なくする必要があるという。そこで注目されているのが、強磁性体/反強磁性体の界面に発現する、強い垂直磁気異方性である。特に、界面での磁気交換結合という新たな仕組みを用いれば、シンプルな構造で垂直磁化を実現できるという。
研究グループは、酸化マグネシウム(MgO)基板上に、膜厚が6nmのFeと32nmのFeRhを積層した。Fe/FeRhの界面は原子層レベルで平たんとなっている。この界面において、磁気交換結合により垂直磁気異方性が発現することを確認した。
実験の結果から、温度が390KではFeRhが強磁性を示し、FeとFeRhの面内磁化がカップリングをした1本の共鳴線を示すことが分かった。一方、340KではFeRhが反強磁性となり、Feの面内磁化の共鳴に加え、強い垂直磁気異方性を有する共鳴を観測できたという。これらの実験から強い垂直磁気異方性は、界面近傍での磁気交換結合に由来するものであることが判明した。
実験では、FeRh薄膜の磁気相転移を温度で制御した。FeRhを強誘電体上に成膜をすると、電圧印加によるひずみ輸送といった手法でも、磁気相転移の制御が可能になることは既に分かっていた。このことから今回は、垂直磁気異方性の電圧制御につながる新たな現象が見いだされたとみている。
今回の研究は、名古屋大学大学院理学研究科の大村浩貴博士前期課程学生(研究当時)や小森祥央助教、井村敬一郎講師、谷山智康教授らによる研究グループと、名古屋大学超高圧電子顕微鏡施設の荒井重勇特任准教授、依田香保留技術支援員らが共同で行った。
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