産業の融合による課題には「プラットフォーム」が効く:ADI+Linear+Maximの“総力戦”(2/2 ページ)
車載向け半導体では、電動化などのトレンドにより、「複数の産業の融合による新たな課題」が生まれているという。Analog Devicesは、新たな課題に柔軟に対応できるよう、「プラットフォーム」戦略を掲げる。
長い歴史を持つ、ADIのBMSチップ
Morgan氏がADIのプラットフォームの一例として挙げるのが、電動化向けのプラットフォームと、車載インフォテインメントなどインキャビンエクスペリエンス向けのプラットフォームだ。
電動化向けでは、「BMS(Battery Management System)/エネルギーストレージプラットフォーム」を展開する。ADIは、BMSチップで既に多くの市場実績を持つ。2009年に第1世代品を出荷して以来、買収したLinear TechnologyとMaxim Integratedの製品も取り入れながら新しいBMSチップを開発してきた。
Morgan氏は、BMSの設計者が現在、抱えている課題として、1)バッテリーからいかに最大限のパフォーマンスを引き出すか、2)いかに、さまざまなバッテリー材料に対応するか、3)バッテリーの安全性を挙げる。特にバッテリー材料については、資源の量や、採掘における人権の問題などが取り沙汰されていて、今後はサプライチェーンを取り巻く状況が厳しくなることが指摘されている。Morgan氏は「コバルトフリーバッテリーの開発も進んでいて、こうした新しい材料のバッテリーも今後出てくるだろう。これらに対応することが、BMSの設計では課題になる」と述べ、こうしたBMSの新しいトレンドにも、プラットフォームであれば柔軟に対応しやすいと説明した。
2021年には、ワイヤレスBMSチップもリリースした。ワイヤレスBMSは、バッテリーを自動車に搭載する前からSOC(State of Charge)が分かるので、バッテリーのライフサイクルのさまざまな段階を追跡できるという利点を持つ。「同チップは既に1社の自動車メーカーが採用を発表しており、今後、複数の自動車メーカーも採用する予定となっている」(Morgan氏)
Morgan氏によれば、ADIの次世代BMSチップは、EIS(電気化学インピーダンス分光法)機能を搭載するという。同機能により、これまでは取得が難しかったバッテリーデータを得られるので、より高性能なBMSを実現できるとする。「近い将来、次世代BMSチップの詳細をお伝えできるだろう」と同氏は述べた。
車載インフォテインメントの構成要素
インキャビンエクスペリエンス向けプラットフォームには、オーディオ向けDSP「SHARC」や、車載用オーディオバス技術「A2B」、車載向け伝送技術「GMSL(Gigabit Multimedia Serial Link)」などが構成要素として含まれる。
インキャビンエクスペリエンスの進化に伴い、カメラやディスプレイ、マイク、スピーカーなどの搭載数は右肩上がりで増加する。つまり、処理しなければならないデータ量もそれに伴い増えるということだ。「われわれのプラットフォームで行うインテリジェントエッジが、ますます重要になる」とMorgan氏は語る。とりわけ、デジタル映像信号、オーディオ信号、制御信号を、1本のケーブルで伝送できるGMSLは大きな役割を担う。ケーブルの重量とコストの低減につながるからだ。GMSLは、既に25社以上の自動車メーカーが採用しているという。
Morgan氏は、「ADIとLinear Technology、Maxim Integratedの総力を生かし、顧客のニーズに応えられるソリューションをスピーディに開発できることが強みだ」と語った。
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