バイオとデジタルの融合が未来のバイオセンサを創る:福田昭のデバイス通信(490) 2024年度版実装技術ロードマップ(10)
今回からは「2.2.2 バイオテクノロジーとデジタルテクノロジーの融合」の概要を紹介する。この項目は、「2.2.2.1 次世代シーケンサと血糖値センサ」「2.2.2.2 バイオセンサ」の2つのパートで構成される。
バイオ技術とデジタル技術の融合事例を説明
電子情報技術産業協会(JEITA)が2年ぶりに実装技術ロードマップを更新し、「2024年度版 実装技術ロードマップ」(PDF形式電子書籍)を2024年6月に発行した。既に6月11日には、ロードマップの完成報告会を東京で開催している(本コラムの第462回で既報)
本コラムではこのほど、ロードマップの策定を担当したJEITA Jisso技術ロードマップ専門委員会の協力を得て、前回の2022年度版に続いて今回の2024年度版も概要をご紹介できるようになった。この場を借りて同委員会の皆さまに深く感謝したい。
上記の経緯を経て、本コラムの第482回から、2024年度版のロードマップ概要をシリーズで紹介している。前々回と前回は「2.2.1.4 ウェアラブルデバイス、ウェアラブル用電源の動向」の概要をご報告した。
今回からは、「2.2.2 バイオテクノロジーとデジタルテクノロジーの融合」の概要をご紹介する。この項目は、「2.2.2.1 次世代シーケンサと血糖値センサ」「2.2.2.2 バイオセンサ」の2つのパートで構成される。
基質特異性を備えた材料を活用
順番としては逆になるが、まず「2.2.2.2 バイオセンサ」を説明しよう。「バイオセンサ」とは、生体あるいは生体由来の材料を電子デバイス上に実装したケミカルセンサ(化学センサ)を指す。生体由来材料の一部(特に酵素はそのほとんど)は、特定の材料とだけ反応する性質を備える。この性質を「基質特異性(Substrate specificity)」と呼ぶ。
バイオセンサは目的の物質(標的物質(Analyte))だけを認識して反応する「基質特異性」を備えたバイオ分子(Probe)を使って電荷、pH(ペーハー)、誘電率、重量、発色、蛍光特性などの変化を信号変換素子(Transducer)に伝え、電気信号(電圧信号あるいは電流信号)に変換する。信号変換素子には、イオン、光、物理、電気化学などの技術が利用される。
酵素とISFETによるバイオセンサ
バイオセンサに使われる代表的な信号変換素子に、「イオン感応性電界効果トランジスタ(ISFET:Ion Sensitive Field Effect Transistor)」がある。ISFETはMOSFETと似た構造をしており、ソースとドレイン、チャンネルを備える。違うのはゲート領域で、ゲート絶縁膜に「感応膜」と呼ばれるイオンを検出する絶縁膜を使う。そしてゲート電極(「参照電極」とも呼ぶ)は外付けとなり、溶液中にレイアウトされる。感応膜がイオンを検出するとチャンネル表面の電位が変化し、しきい電圧が動く。
ISFETを使ったセンサの代表的な用途は、水溶液中の水素イオン指数(pH値)を検出する「pHセンサ」である。pHの値が低い(酸性)とドレイン電流が高く、pHの値が高い(アルカリ性)とドレイン電流が低くなる。
![「イオン感応性電界効果トランジスタ(ISFET:Ion Sensitive Field Effect Transistor)」を利用したバイオセンサの例(概念図と構造図)[クリックで拡大] 出所:「2024年度版 実装技術ロードマップ」、p.38、2024年6月発行](https://image.itmedia.co.jp/ee/articles/2503/05/mm250305_device03.jpg)
「イオン感応性電界効果トランジスタ(ISFET:Ion Sensitive Field Effect Transistor)」を利用したバイオセンサの例(概念図と構造図)[クリックで拡大] 出所:「2024年度版 実装技術ロードマップ」、p.38、2024年6月発行
さらに、感応膜の表面にプローブとなる酵素を固定することで、特定の化学物質を検出するバイオセンサとなる。例えば酵素の一つである「アセチルコリンエステラーゼ(AchE:acetylcholinesterase)」を固定する。AchEは信号伝達物質の「アセチルコリン(Ach:acetylcholine)」を捕捉して、酢酸(acetic acid)とコリン(choline)に分解する。酢酸は水溶液中のpHを変化させるので、ISFETの電流(しきい電圧)が移動する。
(次回に続く)
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