次世代半導体材料SnSの研究が前進、大面積の単層結晶成長に成功:スピントロニクスデバイスに応用
東北大学と量子科学技術研究開発機構、英国ケンブリッジ大学らによる研究グループは、次世代半導体材料として注目されている一硫化スズ(SnS)について、大面積単結晶を成長させることに成功し、その結晶を単層の厚さに薄膜化する新たな手法を確立した。SnS半導体はスピントロニクスデバイスなどへの応用が期待されている。
CVD法による成長と昇華プロセスの組み合わせで実現
東北大学と量子科学技術研究開発機構、英国ケンブリッジ大学らによる研究グループは2025年6月、次世代半導体材料として注目されている一硫化スズ(SnS)について、大面積単結晶を成長させることに成功し、その結晶を単層の厚さに薄膜化する新たな手法を確立したと発表した。SnS半導体はスピントロニクスデバイスなどへの応用が期待されている。
次世代半導体に向けた新材料として、原子1層分の厚みを持つ「二次元物質」が注目されている。スズ(Sn)と硫黄(S)の化合物である硫化スズ(SnS)もその1つである。SnSは有害元素を含まないため環境負荷が小さく、地球上には豊富に存在する材料である。ただ、これまでの作製法では大面積の単層結晶を得るのが難しかったという。
研究グループは今回、化合物前駆体を用いる従来手法ではなく、元素状のSnとSを用いた化学気相成長(CVD)法によって、高品質なSnSの選択的成長に成功した。実験では、熱力学状態図に基づいて反応を制御した。これによって、SnSと二硫化スズ(SnS2)との間で、相の切り替えが自由に行える成長条件を確立した。
また、CVD法による成長と昇華プロセスを組み合わせることで、大面積かつ単層レベルのSnS結晶を実現した。研究グループは、昇華プロセス中の薄膜化挙動について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて可視化することにも成功した。
今回の研究成果は、東北大学大学院工学研究科の小山和輝大学院生と石原淳助教、好田誠教授、量子科学技術研究開発機構高崎量子技術基盤研究所量子機能創製研究センターの圓谷志郎上席研究員、英国ケンブリッジ大学工学部のStephan Hofmann教授らによるものである。
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