米国はGaNパワー半導体製造の中核になるか、NavitasがGFと提携:26年後半に量産開始へ(2/2 ページ)
TSMCが2年以内に窒化ガリウム(GaN)ファウンドリー事業を段階的に終了すると表明して以来、業界にその波紋は広がり続けている。最近、この技術に関する新たな展開があった。GlobalFoundries(GF)がTSMCの650Vおよび80V向けGaNパワー半導体製造技術のライセンスを取得したことに加え、NavitasがGFとの提携を発表したのだ。
米国はGaNの主要製造地域になるか
TSMCがGaN製造から撤退すると発表した直後、Navitasは今後12〜24カ月で台湾PSMCに生産を移行すると発表していた。TSMCとPSMCの両社は、いずれもシンプルでコスト効率の高いGaN-on-Si技術を採用している。
TSMCのGaNウエハー出荷の約半分を占めるNavitasがGFに軸足を移すことは、重要な疑問を投げかける。すなわち『これは重要な半導体技術のサプライチェーンの重心を米国に移す意図があるのか』『この技術がAIデータセンター、電気自動車(EV)、電力網インフラといった高電力用途を支える中で、米国内に強靱な製造基盤を築くことが狙いなのか』という点だ。
従来のCMOSベースのSiソリューションが電源システムで性能限界に直面する中、GaNは高効率/高電力密度/コンパクトさを備えた高耐圧技術として、スマートフォンから大規模データセンターまで幅広い領域で採用されつつある。GaN半導体は高電圧/高周波数/優れた熱特性といった厳しい要件に最適なソリューションとされている。
GFは、TSMCとの戦略的提携のニュースと共に、GaN製造分野の取り組み強化に向けて米国政府から950万米ドルの追加資金を獲得した。業界のレポートによれば、GFはこれまでにGaN製造関連で米国政府から累計8000万米ドル以上を受け取っている。
2026年は勢力図が大きく動く年に? GFのGaN戦略
TSMCとの提携によってGFは、GaN-on-Si技術全般、特にPDK(Process Design Kit)の対応力や製造歩留まりを強化している。GFは現在、バーモント工場で200mmウエハーのGaN-on-Si製造能力を構築中だ。
TSMCとのIP(Intellectual Property)協業はGFのエコシステムも強化する。さらにメガファブであるTSMCとの提携によって、GFはより多くの生産案件を獲得できる見込みだ。つまりTSMCの実績あるプロセスIPは、GFのGaN製造サービスと生産規模を強化することになる。
同時にGFは、GaN IPポートフォリオおよび信頼性試験のための新しいツール、装置、試作能力を強化し続けている。2024年にはTagore TechnologyのGaN IPポートフォリオを取得し、このGaN技術の大規模製造への取り組みを強化した。
半導体製造における戦略的アプローチで知られるGFは、米国におけるGaN製造のハブとなることを明確に狙っている。GFは、特に米国拠点のGaN半導体メーカーから、TSMCの現行GaN事業の大半を獲得することを目指すだろう。
TSMCが2027年7月31日までにGaNウエハー事業撤退を計画する中、2026年はGaNデバイス製造の勢力図が大きく動く年となる可能性が高い。また、中国のコスト競争力の高いGaNファウンドリーが、この急成長する技術分野でどれほどの影響力を持つのかも、より明確になるだろう。
TSMCの撤退決定、その背景
TSMCが2025年7月にGaNファウンドリー事業からの撤退を公表した際、業界では複数の要因が取り沙汰された。中国の競合ファウンドリーからの強い圧力、利益率の低さ、そしてCoWoS(Chip on Wafer on Substrate)など成長分野にリソースを集中させるというTSMCの方向性が話題となった。
しかし、TSMCは極めて戦略的な意思決定を行う企業と認識されている。30年以上にわたる技術開発の歴史において「撤退する側」として知られてきてはいない。
それでは、この重要技術を米国に提供することは、米国のテクノロジー業界との取り決めの一部だったのだろうか。あるいは少なくとも、それが複数ある要因の1つだったのだろうか。
いずれにせよ、GFとTSMCの戦略的提携は、GaN半導体市場全体に大きな影響を与える。この技術統合は、現在GaNウエハーとその量産において直面している多くの課題に対処する助けにもなるだろう。
【翻訳、編集:EE Times Japan】
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