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編集者が選ぶ「2025年半導体業界の漢字」――「激」2025年 年末企画

間もなく終わりを迎える2025年。そこで、EE Times Japan編集部のメンバーが、半導体業界の“世相”を表す「ことしの漢字」を考えてみました。

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「激」動の1年だったパワー半導体業界

半導体業界「ことしの漢字

 筆者が選んだ漢字は「激」です。

 「ことし」を1字で表現するとはいっても、実際には1年間という長い期間の中で起こる出来事は多岐にわたります。しかも、立場や環境が違えば、それらの事象の捉え方も変わります。業界や分野をどれだけ絞ったとしても、その前提は変わらず、万人が納得するような『正解』は、存在しないでしょう。ですので本企画は、編集部メンバーが、それぞれの視点から、独断と偏見で選んだものとしてお楽しみいただければと思っています。

 とはいえ、やはり対象をある程度絞った方が、漢字の選定はしやすくなります。また、業界全体を総括した形の漢字選定は、他の編集部メンバーがしっかりやってくれると思います。そこで今回、筆者はあえて独断で「パワー半導体」をテーマにことしの漢字を選ぶことにしました。そして選んだのが、「激」という一文字です。

 この字を選んだ理由は、パワー半導体市場での競争が「激化」し、大手企業の破産や事業参入の断念、投資計画の見直しや、企業買収などが相次いだからです。ことしは、前年からの電気自動車(EV)失速の影響や中国勢の勢力拡大の影響が、より明確に可視化された年だったと感じています。

 個人的に最もインパクトがあったニュースは、Wolfspeedの破産申請です。同社は炭化ケイ素(SiC)ウエハーでは首位の地位を維持していたうえ、SiCパワーデバイスでも投資を強化し、世界シェア4位にまで成長していた主要プレイヤーの1社でした。しかし、大規模な投資を進めてデバイス事業の強化を図る中で、近年、中国のSiCウエハーメーカーが急成長を遂げて価格競争が激化。さらに世界的な電気自動車(EV)需要減による市場減速の影響も受け、経営が悪化し2025年6月に米国連邦破産法11条の適用を申請したと発表する結果となりました。Wolfspeedは同年10月に、財務再編プロセスを無事完了し、米国連邦破産法11条の適用から脱却したと発表し『新たなスタート』を切っていますが、この出来事は、市場競争の構図が急速に塗り替わっている現実を、はっきりと浮かび上がらせました。

 Wolfspeedに関しては、同社とSiCウエハーの長期供給契約を結び約20億米ドルの預託金を支払っていたルネサス エレクトロニクス(以下、ルネサス)が再建を支援。預託金はウルフスピードの株式や転換社債に転換されることになりましたが、このリストラクチャリングに伴い、ルネサスは2350億円の損失を計上することになりました。なおルネサスは、EV市況の悪化や中国勢の台頭などを理由に、SiCパワー半導体および、IGBTの開発を中止したことも明かしています。

 国内ではまた、近年、SiC分野で大規模な投資を進めてきたロームが、2024年度通期業績において500億円の赤字転落となったことも印象的でした。同社にとっては12年ぶりの赤字で、同社社長の東克己氏は、SiCパワー半導体をはじめ市況の変化を読み切れず、投資のブレーキの「判断が遅かった」と説明。SiCを成長ドライバーとして強化する姿勢は維持しつつも、業績立て直しに向けて人員の適正化や拠点の再編など構造改革を進めることになっています。

 GaN分野でも大きな動きがありました。TSMCのGaNファウンドリー事業撤退です。ここでも、TSMCがAI需要を背景とした先端パッケージ技術に注力していることの他に、中国のGaNファブからの価格圧力が高まっていことが要因として挙がっていました。GaNファウンドリー市場の40%を占めていたというTSMCの撤退決定に、同社に製造を委託していた企業は製造移管などの対応を余儀なくされています。

 GaNデバイス市場では、サンケン電気がパウデックを買収/吸収合併を発表し独自の高耐圧GaNデバイスの開発を加速している他、onsemiが縦型GaNを発表するなど新プレイヤー参加で目立った動きもあり、競争環境がさらに激化しています。これまで民生分野を中心に成長してきた市場ですが、近年、車載分野での技術発展が進むほか、特にことしはNVIDIAが次世代AIデータセンター向けの800V直流電源アーキテクチャ構想を発表し、主要パワー半導体企業各社が同社との共同開発を発表。ここでも特にGaNデバイスの大規模普及拡大の可能性が強調されています。なお、GaNパワー半導体市場トップは中国のInnoscienceですが、Infineon Technologiesが同社と特許訴訟を繰り広げる中、STMicroelectronicsやonsemiは協業体制を確立しようとするなど、その姿勢の違いも目立っています。

 このほか、パワー半導体の市況変化による影響については、日本ではJSファンダリの倒産も大きな話題となりましたが、ここでも主要顧客であったonsemiとの契約終了の他に、中国勢の台頭による価格低迷などが経営不振に陥った要因として報じられていました。

 ここまで振り返ってみると、2025年はまさに「激動」の一年だったといえるでしょう。中国勢の台頭などによって競争が激化し、苦境に立たされる企業もあった一方で、市場構造の変化に対応しようとする動きや、新たな分野に挑戦する企業の姿勢も鮮明になっています。国内では、競争力強化に向けた業界再編を模索する動きがあることも報じられています。

 EV化の進展によるSiCの成長の見通し自体は変わっておらず、ロームもSiC基板の品質/生産能力向上やコスト削減、歩留まり改善などを進めて事業の黒字化、シェア拡大に注力。「中国にも「開発力に負けない」と意気込んでいます。また、GaNも特に車載やデータセンター分野で大きな成長が見込まれています。

 厳しい競争環境だからこそ、技術力や経営判断の真価が問われますが、その中からこそ、新たなチャンスも生まれてくるでしょう。2026年以降、パワー半導体企業各社が現在の「激しさ」を糧に、より強靱な成長を遂げていくことを期待したいと思っています。


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