ダイヤモンド半導体で「ムーアの法則を進める」:米新興企業
Akhan Semiconductor(以下、Akhan)の創設者でありチェアマンを務めるAdam Khan氏は、「ダイヤモンドは、ムーアの法則時代を超える新たなステージへと半導体を導くことが可能な材料の1つになるだろう」と期待している。
Akhan Semiconductor(以下、Akhan)の創設者でありチェアマンを務めるAdam Khan氏は、「ダイヤモンドは、ムーアの法則時代を超える新たなステージへと半導体を導くことが可能な材料の1つになるだろう」と期待している。
米国エネルギー省傘下のアルゴンヌ国立研究所(Argonne National Laboratory)は2014年に、ダイヤモンドをベースとした半導体技術の実用化を目指す官民パートナーシップ協定の一環として、Akhan Semiconductorとの間でIP(Intellectual Property)ライセンス契約を締結したと発表した。Akhan Semiconductorは今や、強力な特許ポートフォリオをとりそろえ、ダイヤモンドをシリコンウエハー上で化学気相成長(CVD)させるためのパイロット設備を整えることにより、余裕を持ってムーアの法則を確実に実行することが可能な、業界初となる技術の試験実施を目指している。
Khan氏は米国EE Timesのインタビューに応じ、「現在のところ、“ムーアの法則”支持派と、“モアザンムーア(more than Moore)”支持派の2つのグループに分かれているが、そこへ、“次に登場する技術”を待つグループが加わることになる」と述べている。
同氏によると、次に登場する新しい半導体材料には、電力レベルやリソグラフィなどの問題を解決することが求められるという。半導体チップ上のトランジスタ密度が増加しているため、熱管理層としてマルチレイヤー材料を追加することにより、最上部の熱を下げたり、深刻さが増している寄生損失などの問題を解決する必要がある。シリコンは、効率と性能のトレードオフの面で限界があり、熱問題が発生することから、パッケージングへの関心が高まるようになった。
しかしAkhan Semiconductorは、パッケージングの他にも、いずれシリコンを置き換える可能性がある半導体材料として、ダイヤモンドに注目している。
Khan氏は、「ダイヤモンドは、熱伝導が最も高いだけでなく、われわれの知る他のどの材料よりも熱放散が優れている。このため、ダイヤモンドを採用すれば、半導体エレクトロニクスのさまざまな熱問題や熱衝撃の問題を解決できるようになる。またダイヤモンドは、ワイドバンドギャップ(WBG)材料としても最適だ」と述べる。
WBG半導体は、シリコンやGaAs(ガリウムヒ素)などの既存材料よりも高い電圧や周波数、温度で動作する。現在は、軍事用レーダーなどの一部のRF用途向けとして使われている。今後は、特に次世代エレクトロニクスデバイスをはじめとする、幅広いアプリケーションでの導入が進んでいくだろう。
既存の製造プロセスを大きく変える必要なし
Khan氏によると、ダイヤモンドを半導体材料として広く普及させていく上で、既存の半導体製造プロセスを大きく変化させる必要はないという。
「唯一、ファウンドリーの製造ラインや製造プロセスそのものに追加する必要があるのは、実際にダイヤモンドを化学気相成長させるためのツールだけだ。それ以外は、われわれがパイロット設備で動作させているような、標準的な半導体製造装置や検査装置をプロセスの中で使用すればよい」(Khan氏)
Akhanは、米イリノイ州北部のアルゴンヌ国立研究所(Argonne National Laboratory)からほど近い場所で、ダイヤモンドCVDプロセスを行っている。
顧客は、少量から中規模の生産を委託することが可能だが、大量生産の場合はチップメーカーへのライセンス供与および装置の販売を行う準備を整えているさなかだ。「顧客は当社のプロセスのライセンスを取得し、そのツールを自社の製造ラインに追加することになる」とKhan氏は説明する。
同氏によると、ダイヤモンドの冷却能力は、銅の5倍、シリコンの20倍以上だという。「他に使われている材料の種類などにもよるが、動作中のデバイスの温度はほぼ室温まで下がることを確認している」とKhan氏は述べる。
Akhanの技術は、光学部品やディスプレイ用ガラス、そしてLockheed MartinやHoneywellといった顧客に向けたチップなどに使用されているという。さらに、大手スマートフォンメーカーや半導体製造装置メーカー、航空宇宙/防衛分野のエンドカスタマーなども顧客に含まれているとKhan氏は述べた。
アルゴンヌ国立研究所とともに、Akhanは“2つの大きなブレークスルー”を達成したという。1つは、CMOSと互換性のある温度でのダイヤモンドの低温成膜。2つ目は、パワーおよびロジックベースの電子機器向けに、ダイヤモンドでの新しいコドーピング(co-doping)技術を開発したことである。
その後、Akhanは、光学からディスプレイ用ガラス、半導体などさまざまな用途をカバーする、40件以上の特許を世界で取得するほどまでに技術開発を進めた。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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